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日向ぼっことしての編み物

世の中に意味のあることが溢れ過ぎじゃないかと思って。
だから不毛なことを一生懸命やろうと思ったんですよね。

そもそも今年の目標は「日向ぼっこをたくさんする」だった。高校生から専門学校、社会に出てからも実家を出るまで、よく日向ぼっこをしてたのだ。自室の狭い日溜まりに体育座りして。ポッドキャストの落語とかTSUTAYAで借りてきたミスチルのアルバムとか聞きながら。村上春樹やら吉本ばななやら読むこともあったし、折り紙でこまごましたものを作ったり、ゲームするときもその日溜まりに座ってた。どう考えてもあまり生産的ではないことばかりやっていた。実家暮らしの大人しい子を持つたいていの親と同じく、うちの母もやはり少しはやきもきしていたと思う。自分でも、あれが何のためのどういう時間だったのかずっとわからなかった。ただ、それ以外にすることはなにもないと感じていたと思う。

ひとり暮らしになってからは打って変わってものすごくアクティブになった。何時に帰ってもいい、というか帰らなくてもいい環境というのは若者をわくわくさせる。実家に大人しい子がいてやきもきしている親御さんはいっそ門限を撤廃すればいいんじゃないかと思う。それかスチャダラパーのアニさん・シンコさん兄弟がやられたように「25歳の誕生日までに出ていけ」とほっぽりだすか。(ここまであからさまに子やらいする親ってのも気風が良すぎてなかなか珍しいけど)

ただ、外の世界は意味に溢れすぎていて、そこに居続けるには体力が要る。様々なティップスを取り入れ仕事効率化と生産性アップを目指し、SNSでは映えやバズを狙って投稿し、みたいな。意味や成果を求める活動は努力しがいがあって楽しいけど、はっきり言って疲れる。人生ってそんなふうに消耗するためのものじゃない気がする。

編み物をやりだしたのは一昨年だったかな。実家にいた頃に少し手を出してみて挫折した趣味だった。一人暮らしなので夜ふかしして編んでても誰にも小言を言われないし、うまくいってもいかなくてもどっちでもいい。趣味って本来そのくらい気軽にやるものだと思う。

専門学校のとき、就活指導で「面接で趣味を聞かれたら、それなりに打ち込んでいることを答えるんだよ。上には上がいるんだから。」というようなことを言われて、なにしろ日向ぼっこしかしてなかったので「そんなご立派な趣味なんてあるわけないじゃないか。就職するなってか?」と不貞腐れていた。そのとき先生が言っていたことに照らし合わせれば、今の私にとっての趣味は音楽ということになる。CDアルバム3枚と7インチ1枚に参加して全国リリースされてるんだからそれなりに格好はつくだろう。でも個人的には、音楽は趣味とは思えない。趣味と呼ぶには、責任がありすぎる。自ら嬉々として背負い込んだ責任だから負担ではないけれど、だからこそ趣味とは思っていない。

編み物のいいところは、何度もやり直しがきくところだ。間違えたらほどけばいい。思うように手が動かなければ、ゆっくりひと目ずつ編めばいい。音楽というのは根本的に「一発でうまくやること」を求められてて、曲芸とかに近い。そういうのに慣れていたからか、編み物の「やり直しがきく」というところに癒やされた。

Youtubeでハウツー動画をみつけてまずは帽子を編んでみた。動画なので、何度も巻き戻して手の形を真似ながらやってみたら、案外ちゃんとできた。テキストを買ってきて、ネットや雑誌で色んな編み図を物色するうちに、輪針でアランニットを編むのが楽しいということに気がついた。糸が面になり、立体になっていくのが嬉しい。

一年半くらい前から編んできたセーターが、とうとう編み上がった。だんだん形が出来上がってきて「あー終わっちゃうなあ」と少し残念な気持ちも湧いた。編み始めたときは完成するかどうかすら怪しかったのに、気張らずにひと目ずつ編み進めるのを楽しんでたら出来上がっちゃうものなんだなあ。途中で投げだすことも見越して、本来はいっぺんに買わなきゃいけない糸玉を毎月少しずつ買ってきたのにね。(ロット毎に色味が変わってしまうから本当はご法度なのだ)

編み物を編んでる時間はコンテンツにならない。いや、なるのかもしれないけど、わざわざそうする理由が私にはない。日向ぼっこと似ていて、映えもせず、消費もされない。そういう時間って豊かだなあと思う。

もちろん、編み物を職業にしたら感じ方は全然変わるんだろう。逆に音楽だって誰に聞かせるつもりもなく、時々楽器を爪弾くだけでも良いわけで。何に責任を持ち、何を無責任に取り組むかは人それぞれだ。でもまあとにかく、“無責任に楽しむ気持ち”を忘れないようにしたいなあと。SNSを筆頭に、どうしてもハレとケのハレばかりが目に付きやすい世の中だから、ケのほうをちょっとばかし贔屓にしていきたい。

次はスパッツを編もうと思ってるけど、これも完成はいつになるやら。長々楽しみたいなあ。

ヘッダー画像のセーターの編図はこちら
(designed by 柴田 淳)