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第21話「ヤクザルの雄叫び」(鹿児島県屋久島)

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜

世界遺産「屋久島」は、鹿児島県の南に位置する日本で7番目に大きい島。
島の周囲は、約130キロで、形状は円形に近い五角形。

洋上のアルプルといわれ、全域はほぼ山林に覆われる屋久島は、「ひと月に35回雨が降る島」と言われる。
島に降る雨は約140の川となって森を巡り、生命を育み、海にたどり着くと再び水蒸気となって天上へ。
この絶え間ない水の循環が豊かな自然の中心をなしている。
雨は屋久島の象徴なのだ。

島はぐるりと1周アスファルト舗装がしてあり、1日で自転車で回れる距離だ。
大小さまざまな細かな起伏道の連続が続く中、自転車で走っていた時に遭遇したもう一つの屋久島の象徴との出会い話。

この屋久島には、いたるところに野生サルが棲んでいる。屋久島に住んでいるので「ヤクザル」というらしい。
特に島の西部に圧倒的に多くのヤクザルが生息している。道路に我が物顔でヤクザルが遊んでいる。
その数、10匹なんてものではない。100匹レベルのまさに島の住民のようだ。
その合間を縫うように自転車を走らせる。

このヤクザルたちは、妙に勇ましい顔つきで堂々とした振る舞いでそばを通り抜けるときはちょっと緊張する。観光地にいるような餌付けされた貧弱なサルとはわけが違う。
わしらは世界遺産の深い森に住んでいる主じゃ、やる気あんなら、いつでも相手してやるぞ、という雰囲気が漂っていて目なんて合わすことが出来ない。

ヤクザルとの正しい付き合い方は、無視することに限ると、島の人たちは言う。
決して、目は合わせてはいけない。
決して、相手にしてはいけない。
決して、食べ物を与えてはならない。
決して、刺激してはいけない。
絶対犯してはならない四原則をしっかり守りながら、ヤクザルの間を走る。慎重に進んでいく。

しかし、事件はいきなり起こった。
起伏の激しいグネグネ道を上り、下り坂を少し勢いをつけて走っていた時、ふいにヤクザルが現れた。
現れたというよりヤクザルがのんびりとくつろいでいるところへ怪しい自転車野郎が突如としてやってきたという感じだった。
こちらとしては突然のヤクザル出現にまったくびっくり。

「うわっ」

と思わず声を出してしまった。
と同時に

「ガチャッ」

と自転車を倒してしまった。
「うわっ」でヤクザルと視線が合って、「ガチャッ」でヤクザルを刺激するかたちになった。
まったく正しいヤクザルとの正しい付き合い方に反する最悪な行為となったのだ。
威嚇されたと感じたヤクザルは、突然「ウッキキィッーー」と歯ぐきむき出しにして攻撃態勢に入ったのだ。
僕は更にびっくりして全身鳥肌が立った。
言葉にすると「ウッキキィッーー」と生易しいが、実際このあたりにこだます叫びを聞けば腰が抜けそうになる。
野生動物魂のオタケビのようだった。
自転車の周りにヤクザルがどんどん集まってくる。
完全に包囲されてしまった。
もしかしたらさっきの雄たけびは仲間を呼んだのかもしれないと思う余裕はあったものの、このあとどうしたらいいのか分らなくなった。
一斉に飛び掛かってきて無茶苦茶にされるんじゃないだろうかと恐ろしくなった。
このままだったら殺されると感じた僕は、とっさに威嚇には威嚇しかないと逆上した。

「運命よ、そこをどけ。俺が通る。」
とバスケットボールの神様 マイケル・ジョーダンは、相手をことごとく葬り去り、NBAの頂点に6回輝いたように、「ヤクザルよ、道を開けろ、俺様が通る」と言わんばかりに逆上した。
そしてなにを思ったのか、「ウギョッ」とおかしな気合を発し、2,3回勢いよくペダルを漕いでヤクザルめがけて一点突破を図ったのだ。
とにかく自分は大きく怖い存在だとヤクザルたちに知らしめるために、首から手、足、腰の体の動かせる部分全身フル動員してバタバタと動かし正体不明のエアロビ攻撃で突破した。
ヤクザルがひるんだすきをついて、そのまま走った走った。ひたすらペダルを漕いで走った。
その後は正しい付き合い方を守り、無事に屋久島一周が果たせたのだった。

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