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第34話「西表島縦断記」(西表島)

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜


小浜島を離れ、八重山諸島の玄関口である石垣島で再びキビガリ隊は集結した。

「その存在は一部のイノシシ猟師にしか知られていない幻のマヤグスクの滝をこの目で確認すること」を目的に1泊2日の西表島縦断旅を実行するためだった。
その秘境は西表島の中央に位置し簡単には行くことが出来ないということだった。

西表島は、特別天然記念物に指定されているイリオモテヤマネコで有名な島で、本島に次ぐ面積を持ちながら島全体の90%が亜熱帯のジャングルに覆われている。
東洋のガラパゴスと呼ばれるサソリやハブなどの毒虫をはじめ多彩な生態系が存在している魅力的な島なのだ。
この島をキビガリのアルバイト後、歩いて縦断しようではないかという計画を立てていたのだ。そうしてキビガリを終えた隊員6名が集結し、西表島縦断探検隊が形成されたのだ。
いつも歩く道を離れ、未踏の森に飛び込めば、新しい物が見つかる。

探検隊は石垣島から西表島・上原港へフェリーで移動する。
縦断トレッキングは、八重山警察と沖縄営林所への届け出が義務づけられていた。観光パンフレットにはあまり紹介されていない。それは遭難の恐れがあるためだ。
まず上原駐在所と森林事務局へ出向き諸手続きを申請。
沖縄県最長の浦内川の遊覧船に乗って上流の船着場に移動。軍艦岩を起点に山道を40分ほど歩くと、日本の滝100選に選ばれているマリュードの滝、さらに進むと壮大なカンピレーの滝が目の当たりに迫る。

この2つの滝が西表島縦断旅の始まりとなる。
ここから生物の濃密な気配のする亜熱帯のジャングルが16キロに渡って続くのだ。
キラキラの昆虫や、けたたましい野鳥の鳴き声におびえたり、見たこともないような大きな規格外の植物をかき分けながら登山道をガシガシ進む。

4番目を歩く。
これにはちょっとした理由があるのだ。
ハブ対策で草むらを一列に並んで歩く時、何番目が一番安全かという問題。
草むらで寝ているハブは、一人目が歩くときに目を覚ます。
二人目の時にとぐろを巻いて攻撃体勢に入る。
そして三番目に歩く人をガブリと噛みつく。
最も危険なのが三番目と言われている。
そんなことを知らない与那国雷鳴事件で苦難を耐え凌いだ田中君が3番目だ。
俺はやや怯えながら、田中君の後を歩く。
知らぬ間に前を歩く田中くんの腕に黒い塊がついている。よく見るとそいつはヒルでいつの間にか吸いつかれTシャツが赤く染まっている。

「ひぇ〜、しんじさん、取ってください。」

まるで映画「スタンド・バイ・ミー」の世界のようだと探検隊気分で、数時間ひたすら歩き続けると小さな沢に出た。
マヤグスクの滝は浦内川の支流、イタジキ川の上流に位置する。
マヤグスクの滝に続くと思われるその沢を登っていくとそこには階段状の絶景が広がっていた。
その段々になった滝は流れの中を登ることができ、滝上は畳100畳ぐらいの平らなテラスになっていた。その奥が切り立った崖になっているので、滝上から下を見下ろすと大きな劇場の舞台の上にいるような気分になった。
これがマヤグスクの滝であった。
しばらく眼下に広がる絶景を楽しんだ。

探検隊は、支流から縦断道に戻り、野宿をするためテントを設営し簡素な食事を取り就寝体制に入った。
この夜、漆黒の闇というものを初めて体験した。
外灯など人工的なものは何一つ存在しない亜熱帯の深いジャングルに囲まれた森は完全に月や星の光をさえぎっていた。
純度100%の暗闇だ。
わずか30センチ先の視界が利かない。
これが漆黒の闇というのもだな、と感心していた矢先、今度は急に周囲が明るくなったのだ。
テントから顔を出すと漆黒の闇にホタルが舞っている。
そのわずかな光の数々が周囲を照らしていたのだ。
漆黒の闇を照らす無数の蛍の光だった。
何とも言えない幻想的な雰囲気に包まれた西表の夜となった。

翌日8時、出発点とは対岸の集落である大原に向けて歩き出す。道なき道を歩き続ける。
荷物が肩に食い込み疲れる。
喉が乾く。
至る所に沢がある。天然の山水だから、飲料しても問題はない。でも生ぬるく気持ち悪いので我慢する。
ひたすら歩き続け、ようやく16時に目指す大原に到着。
のどを潤すキンキンに冷えたオリオンビールが飲みたいとずーっと渇望しながら歩いていた。
大原の集落の商店で待望のオリオンビールを買い、無事に縦断が達成できた喜びで乾杯。

一気に飲みほす。このときのビールのうまさは我が人生で味わったベスト3に入るほどの体にしみわたる素晴らしいものだった。

面白そうなことにすぐに反応できるか。
それが面白い未来を引き寄せるコツである。

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