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「夜天一族」第六章

第六章 「月の祈り」

♫星に願うならばなかったでしょう

月にはワタシ達のことが視える

無くしたものを何処へ探しにゆくの

過去から未来への想いを誓う

月の祈りの魔法を唱える

言葉をワタシに伝えて欲しい

視えずに探してた暑い夏も

ワタシは何から逃げてたのかな

ずっと まだ それさえも忘却のなかで

亡くしたくないと知っている

その時のヨロコビも あの時の淋しさも

月は祈りのすべてをワタシに託し

ココロの底に焼きつく想いに切なくなる

月が満ちゆくまでは届かない

空の上ではアナタは幸福♫


唄声が聴こえる。
飛び込んだ先の月の塔は、想像していたものとは全く違っていた。
無重力空間であるかのように体が宙に浮いている。
塔の内部も外観と同じ光に満ちた空間である。
地球にあるような石で出来た古びた塔でもなければ、鉄で出来た素材を組み立てた電波塔的なものでもない。
只、何もない空間があり、上下も前後もない。
「コザル王女、唄声が聴こえるの分かる?」
普段から浮かび上がっているコザル王女は特に変わったところは見当たらない。
「はい、聴こえますの。あちらの方向に音符が踊ってますの。キンちゃんにも視えますの?」
コザル王女が示した方向に目を向けると、五線譜の上で馴染みのおたまじゃくしが踊っていた。
「うん、視える。それもメロディに合わせて音符が流れて来るような感じね。あの音符の先にイーシャがいるのかしら」
方向感覚が掴めない上、平衡感覚のバランスが取れない無重力はまだ慣れない。
「唄声はイーシャ自身なのでしょうから、取り敢えず、音符を辿りましょうか」
「そうしましょ」
スィ~っと空間を移動するコザル王女のようには上手くいかない。
「待って!おうじょ~!」
追い着こうと慌てて後を追うが、コザル王女は一人でどんどん先へ向かってしまった。
「キンちゃん、早くですの~。なんだか、ぜんぜん、止まりませんのぉ~~」
重量が軽いせいもあってか、菫青も追い着けないほどである。
加速する王女を見送る。
追い着けないもどかしさに菫青は焦りの色を濃くする。
「王女!もうこうなったら行きつくとこまで行っちゃって!後で必ず合流しましょうねー」
「はいですのぉぉぉぉ」
コザル王女が流れる音符とは逆行するようにどんどん光の中に消えてゆく。
可能であるのなら王女がイーシャの囚われの場処に辿り着くことを願う。
「アタシはどうしようかしら、そう云えば、セイ達はどうしたかな?」
「呼んだ?」
「えっセイ?コザル王子も」
呼ばれて振り返れば、そこには馴染み深い顔触れが揃っていた。
「キンちゃん、ここが月の塔ニョロね。キンちゃんが視たいとか、行きたいとか、思った場処にすぐに行けるニョロよ」
「え?どーゆ―こと?」
「ボクはタノシイとこに向かうニョロよー」
「僕も一緒に行くよ―。んじゃねーキンギョ、また後で」
彼等は完全に目的を見失っているようだ。
まるでどこかのアトラクションへ来ているようである。
「ちょっと、なに云ってんのよ!イーシャを助けに来たんじゃないの!」
二人?の意表を突く返答に我が耳を疑う。
「それはキンギョに任せるよ。じゃねー」
「キンちゃん、またニョロねー」
息つく暇もなく、コザル王子と星葉は好き勝手に気の赴くままで自由だ。
「もう!ここに連れて来たのはそっちでしょう。」なんなのアンタ達は!」
ここにも不思議な一つの宇宙空間が存在している。
念じれば自分の思う通りの世界が現れるのだろうか。
菫青は目を閉じてみた。
次に目を開けたら世界が一変していた。
「えー、なんで塔の中が図書館みたくなってるの~?あっ、そっか、コザル王子が云ってたのってこのことなのね」
円柱であるのは変わりない月の塔は円形の壁面部分に全てが本棚と化していた。
どんなに時代が進化しても、伝統と云うものは後世に伝えられてゆくものである。
まさに、紙製の本が棚一杯に並んでいる。
「うわぁ、本が一杯だわー。紙の本なんて久しぶりね。なんだか、懐かしいわ」
棚から一冊の本を取り出してみる。
そして、手にした本を開く。
「え?」
開いた本は普通ではなかった。
「本型テレビ?じゃないわよね」
紙の質感ではある。しかし、そこに写し出されていたのは映像、それも動画だった。
小さな人型が映し出されている。
それは子供のような形体をしていた。
膝を抱えてうずくまる姿は、どこか淋しげな雰囲気だ。
何か哀しいことがあったのだろうか。
思わず紙面の子供に、触れた瞬間だった。
「ええ?」
菫青は本の中へと吸い込まれる。
「どゆこと?」
目の前には画像でも動画でもないリアルな子供がいた。
「ねぇ、どうしたの?なんで一人でいるの?」
子供の小さな背中にそっと手を当てる。
一瞬、ビクリとするが、菫青がそれ以上何もしないことが分かり落ち着いたようだ。
「・・・なの・・・」
「え?ナニ?ごめんね。好く聞こえなかった・・・」
子供が何かを呟いたようだが菫青の耳には聞き取れない。
「あのね・・・パパとママがいないの」
今度は子供の声が聞き取れた。
「パパとママ?どこにいるの?」
どうやら、両親のいない淋しさに打ちひしがれているようだ。
「おしごと」
「仕事?あなたのパパとママはお仕事でおうちにいないの?」
子供の背中を優しく撫でながら菫青は泣いている理由を誘導してゆく。
「うん、いつもいないの」
「そうなんだ。とても淋しい思いをしているのね」
「・・・」
菫青の言葉に抱えた膝を益々抱え込む。
小さな体がより小さく視える。
「大丈夫よ。あなたは一人じゃない。パパもママもあなたのことが大好きよ。とても大切な存在なの。あなたは両親の宝物なのだから、あなたには兄弟はいるの?」
撫でていた背中から手を放し、菫青は子供を腕に抱き緊めた。
「おにいちゃんたちがいるよ」
腕の中の子供が応える。
「そうなんだ。それじゃあ、今はアタシが一緒にいてあげる」
淋しくないように子供に寄り添う。
一時的でも慰めとなれば好い。
「うん、アリガトウ・・・」
子供の身体から緊張感が脱けたのが分かる。
ホッと安堵したのか菫青に全身を預けて来る小さな重みが愛おしい。
どこか懐かしいような記憶の奥底に刻まれた想いに駆られる。
改めて、子供を抱き緊める腕にギュッと力を込めた。
「あれ?そう云えば、ここって本の中だったわよね・・・?」
自分が本の中の画像内に引き込まれたことを思い出す。
辺りを見廻すと霧のような白く霞んだ世界の中にいた。
色もなく物質と思える物もない、只、白い視通しの悪い空間にいる。
しかし、床のような地面の上にいる感覚はある。
こんな淋しい世界があるのだろうか。
急に菫青の心に不安がよぎる。
「どうして・・・」
この子供はこんなところに独りでいるのだろうか。
両親は仕事で留守をしているとのことだった。
では、兄弟はどこにいるのだろうか。
しかも、ここは月の塔。
次元の異なる時間軸が混在している世界なのだ。
別次元に親兄弟が存命なのだろうか。
それとも、只、違う場処にいるだけなのだろうか。
現時点での菫青には余りにも情報がなさすぎる。
「でも、そんな情報なんて必要ない気がするな」
今はこの子供が落ち着き、少しでも癒されることを希むだけだ。
「大丈夫?」
抱き緊めている子供に声掛けしてみる。
「うん、だいじょうぶ。ありがとう、おねえちゃん」
だいぶ落ち着いたらしい様子の子供にホッとする。
「いいえ、どういたしまして、落ち着いて好かった」
「うん、おねえちゃんがいてくれたから」
未だ俯いているため顔の視えない子供の言葉に嬉しさと愛しさが込み上げて来る。
「アタシの方こそアリガトウ。なんだかとても懐かしい気がしてならないの。不思議ね」
背景が白い霧の中で、広いのか狭いのかさえ分からない空間に放り込まれて、おまけに小さな子供が一人で心細い思いをしているところに遭遇してしまうとは思いもよらない体験だ。
「あのね、アタシね。いつもさみしかったの。おにいちゃんたちはやさしいけど、いつもいっしょにいなくて、パパもママもいつもおうちにいなくて・・・」
云ってるうちに哀しさが益してしまったのか、より一層、膝を抱えてしまった。
『なんて、静かに泣くのかしら、こんな小さな身体で淋しさと闘っているのかしら・・・でも、なんかこんなことアタシにもあったな、昔、うちもパパママが仕事で留守しがちだったし。兄弟は多くてもお兄ちゃんズは年が放れてる分、余り一緒にいた記憶もないなぁ・・・まるでこの子のよう・・な?』
「えっ、ちょっと、待ってよ?」
急に違和感を覚える。
そう云えば、自分はこの子供の顔を視ていない。
「ねぇ、アナタは誰?名前はなんてゆうの?顔を視せて?」
菫青は子供をゆさぶり顔を視ようと覗き込む。
「アナタ・・・」
衝撃に息を飲み、菫青は我が目を疑う。
「・・うそ・・・なんで・・ここに・・・」
信じられない思いで視た相手の顔には見覚えがあった。
なぜなら、そこにいるのは幼き頃の菫青そのものだったからだ。
「アタシ・・・?」
独りで泣いていた、あの頃の自分が腕の中にいる。
思い起こせば幼少期の菫青は、留守がちな両親や年の放れた兄弟達と過ごす時間は殆どなかった。
常にいたのは双子の兄弟の星葉と、お世話をしてくれているシッターが傍にいたくらいである。
幼少時の星葉は落ち着きがなく、興味を持ったものに対しては豆鉄砲の如くノンストップで飛び出してゆくものだから、シッターも目が放せず、どうしても、落ち着いていた菫青からは目が放れがちであった。
「ごめんね。独りにさせて、淋しかったよね。アナタはアタシ自身だもんね。その気持ち、すごーく分かるよ。でもね、アタシは一人ではないんだよ。だからね。泣かないで、大丈夫だか・・ら・・」
言葉を口に出してゆくうちに自分自身も込み上げるものがあり、菫青の睛からも透明な雫がこぼれ落ちてゆくのを止めることは出来なかった。
「・・・ごめ・・ん・・・ね」
嗚咽と共に思い切り子供を抱き緊める。
「ん?だいじょ・・う・・ぶだよ。ありが・・と・・う・・おねえちゃん・・・ちょっと、くるしいよ?」
幼子はもう泣いてはいなかった。
今度は笑顔を視せているようだ。
「うん、うん、大丈夫。」絶対大丈夫だから、一人で泣かないで、心配も不安もしなくていいからね」
力を弛めて、そっと優しく子供だった頃の自分を抱き緊めた。
「ありがとう、未来のアタシ。アタシはもうだいじょうぶだから、もう、泣かないよ。ありが・・とう・・キン・・セイ・・・」
「え?なに?どう・・して・・・」
自分に礼を云う過去の自分が目の前から薄れて消えてゆく。
やがて、実体が消えてしまった。
その場には菫青だけが一人何もない空間の中に取り残されていた。
「菫青?どうした、何をしているのだ?こんなところで」
聞き覚えのある声に顔を向ける。
そこにいたのは、
「コン・・にい・・どうし・・て?」
夜天家の長男、夜天金剛(ヤテンコンゴウ)がそこにいた。
「おまえ達を追ってここへ来たんだが」
「アタシ達を?なぜ?」
月の塔に突然現れた長兄を呆然と視上げた。
「ユージンが月の女神に用があるらしい。我が家の庭に、まさか、次元トンネルが存在していたとは思いもよらなかった」
「ユージン・・・あー!コン兄ってば、ユージン様とはどーゆー関係なの!」
急に起ち上がると、目の前に現れた長兄に喰って掛かった。
「どう云うって・・・月面での学生時代からの友人だよ」
「えー、それ聞いてないわ、もっと早く知りたかったー」
ガックリと肩を堕とす菫青とは裏腹に、金剛の方は全くと云って好いほど冷静沈着さを失ってはいない。
「なんだ、おまえはやつのファンなのか?」
「ええ、月の貴公子、ユージン様のライブ配信はずっと欠かさずに観てたのよ。急に月に来ることになったけど、ここに来る前までユージン様のフォログラフィ観てたの」
途中になったライブ観賞ではあったが、久々に長兄に逢えた嬉しさが全開となる。
「そうなのか、知らなかったな。そのユージンとはここに突入した瞬間にはぐれてしまったんだよ。紹介出来なくて残念だな」
「ふふ、こんな時にナニ云うかと思ったら、コン兄らしいなぁ、あはは・・は・・は・・う、うっ、コン・・ニイ・・」
突拍子もない金剛の言葉が菫青のツボにヒットした。
暫く笑いが止まらない菫青だったが、いつしか笑い声は涙声へと変わっていた。
「菫青?どうした?」
「コン兄・・・アタシね・・・ずっと淋しかったの・・・小さい時からパパもママもお仕事で一緒にはいてくれなかった。お兄ちゃん達もいなくて、いつもいるセイはちゃらんぽらんだったし」
「そうか、それはすまんな。気付いてやれなくて、淋しい思いをさせていたのだな」
「コン兄ぃぃぃ」
様々な想いが込み上げて来る。
堪らなくなった菫青は思いっ切り金剛に抱き着いた。
そんな菫青を金剛は黙って受け留める。
暫く黙って佇んでいた金剛であったが、やがて、菫青が落ち着きを取り戻したところで身体の力が抜けたのが分かった。
「・・・ありがとう、コン兄」
「大丈夫か?」
「うん、ふぅ・・」
呼吸を整えて冷静になる。
「そう云えば、星葉はどこへ行ったのだ?一緒ではなかったのか?」
月の裏側へ辿り着いた瞬間、目の前に現れたのは光り輝く建物らしき物体だった。
それよりも呆気に取られたのが、光り輝く物体の前でシートを広げてお茶会の如く「夜天家」月の邸宅の従者達が、月の裏側の住人である人魚達をお持て成し中であったことだ。
「んー、この塔に突入したら、みんなバラバラになってしまったの。でも、合流先は分かってるので、そこでみんなに逢う予定なの。だけど、ゴールに辿り着けるかは運みたいな感じ?」
月の塔は不思議な異次元世界そのものだ。
予測不能な場処だけに、目的地にたどり着けるのかは疑わしい。
「確かに、ここは常識外れも好いとこだな。それで、ここが月の塔なのか?」
「うん、たぶん。でも普通の塔とは全然、違うみたいなの。コン兄の目にはここは今どんな風に視えてる?」
人の思考に反応を示す月の塔内の変化は様々だ。
金剛もまた独自の世界にいるのだろう。
「白い霧の中にいるような感じだが、視界良好とは云えないな。月の塔とは一体なんなのだ?」
「えっ、コン兄てば、それホント?」
これはシンクロなのか、もしくはリアルなのか。
「本当だが、それがどうかしたのか?」
「うん、ここは自分の思った世界が顕われるらしいの。だから、てっきりコン兄もアタシとは違った世界にいるのだろうと思った」
素直な驚きを云い表す。
「そうなのか?好く分からんがここに突入したら、目の前におまえの姿があった」
「へぇ、それじゃあ、アタシとコン兄は同じヴィジョンを視ているのね」
しかし、のんびりしている場合ではない。
「それじゃあ、イーシャのところへ一緒に往って!彼女を早く助けたいの。月の塔に囚われているんですって」
「イーシャ?イーシャ・・・その名、そう云えば、ユージンからも聞いたような・・・」
月の塔に向かう前に、ユージンが神妙な面持ちで呟いていたことを思い出す。
「え?どうしてユージン様が?イーシャの知り合いとか?」
なんの関連もなさそうな二人の関係には、何か因縁でもあるのだろうか。
「さあ、それは分からないが、イーシャの名を聞いた途端に、ここへ来ると云い出したのだから、何かあることは確かなようだ」
「まさか、ユージン様もイーシャのところへ往こうとしているのかしら?コン兄、ユージン様とイーシャを逢わせてはいけないような気がするの」
閉じ込められていると云ったイーシャに、なぜだかユージンを逢わせてはならない不安に駆られる。
「そうなのか?ところで菫青、おまえはどうしてここへ来ることになったのだ?」
「地球でユージン様のライブ配信を観てたら、同時にイーシャとチャネリング状態になってて、それで彼女に助けて欲しいとお願いされたの。その時に隣りの部屋ではセイがアルクトゥルスの師匠とチャネリングしてて、何か云われてみたいなの。そうしたら、いきなり明日、月へ往くって云われたの。その結果が現在の状態なのだけどね。月の塔は予想外もいいとこだわ。コン兄はどうしてここへ?」
のんびりライブ観賞の予定が、一転して目まぐるしくも慌ただしくなってしまった。
「私はユージンに呼ばれて月神殿へ出向くことになっていたのだが、今のところ、まだ目的達成とはなっていないのだ」
「そうなの、サイン会とかファンミーティングではなかったの?」
作家である金剛の作品は月面でも人気があり、ファンもそれなりにいるのは分かっている。
「今回はまったくのプライベートだよ」
「そうなんだ」
今まで、こんなに長兄と近い距離にいたことがあっただろうか。
「ああ、それともう一つ。ユージンに依頼されたことがあって月へ出向いて来たのだが、月の裏側まで来るとは思わなかったよ。しかも、次元がドーム側と異なる」
「うん、もう何度も月へ来ていたのにアタシも初めて知ったもの。でも、コザル兄妹達は以前から知ってたみたい」
月面ドームから外への移動は、地球間かもしくは月→火星間しかしたことがない。
「ああ、あの兄妹達か、ここにも来ているのか?」
「二人とも来ているけど、この塔に入ったら気流に流されてバラバラになってしまったから、みんながどうしているのかは分からないの」
果たして、今後、皆と再会出来るのだろうか。
「そうか、私もユージンとはぐれたから、同じようなものだな。気流はなかったが・・・この塔は可笑しなところだな。視えているものがそれぞれ違うのか」
「そう!だから、コン兄もアタシと同じことイメージしてみて」
菫青が金剛の隣りに並んで手を繋ぐ。
「コン兄と手を繋ぐなんて何年振りかしら、ちっちゃい頃を思い出すな」
「そうだな、双子だから、手を繋ぐといつも両手が塞がっていたな」
双子とは十五才ほどの年の差があるせいか、幼児期の二人を連れて歩くには目も手も放せない状況だった。
「うん、懐かしいね。コン兄がいる時はいつも一緒にいてくれたけど、いない日の夜は特に心細くて、その度にお月様を視上げてお祈りしてたな」
子供の頃から月を視上げては淋しさを紛らわせていた。
「何を祈っていたのだ?」
幼い弟が夜中にどんな想いで過ごしていたのか気になるところだ。
「えっ、云わないとダメ?」
「ムリにとは云わないが・・」
本当は訊いて欲しい菫青だが、ワザと勿体ぶる。
「ウソ、ちゃんと聞いて欲しい。アタシね、本当は家族みんな一緒にいられたらいいのにって思ってたの。だから、いつもお月様に祈ってた」
菫青の祈りを聞いた金剛は、繋いだ手に力を込めた。
家族構成の多い「夜天家」ではあったのだが、破天荒な両親ゆえの難題だった。
「あの親達のことなので、私が生まれてからもすぐに仕事に復帰して、私も放ったらかしにされていたのだ。帰って来る度に兄弟が増えていたのだからな。お陰で大家族となったものだな」
金剛を筆頭に六兄弟、実は女子も一人存在しているのだが、六兄弟とは一緒には育ってはいない。
「うん、びっくりだよね。育児放棄もいいとこなのに、でも、パパもママも嫌いになんてなれない。アタシは二人のことが大好きだわ」
滅多に逢うことのない両親ではあったが、家族がそろった時の子供達への愛情は計り知れない。
「そうだな、バラバラのようでも私達は家族に違いないからな」
「うん、そうだね」
放れているからこそ改めて家族、親兄弟達の大切さが分かる。
「それで、私達は次は何処へ向かえば好いのだ?」
いつまでも、何もない霧の中にいても進展はないだろう。
「そう、イメージしたところへ移動出来るから、コン兄も目を閉じてコザル王女を思い浮かべてみて!王女と合流したいの」
得体の知れない塔内での単独行動は効率も悪い。
「コザル王女か、王女が何処にいるのか分かるのか?」
「分からないよ。だから、イメージするの。王女のところへ向かえばなんとかなりそうなの」
「そうか、分かった。コザル王女を脳裡に思い描けば好いのだな」
どちらかと云えば、同行したユージンと合流したいところではあるが、今はそれどころではないとのことである。
双子の弟達(一人は娘のように生きている)に救いを求めているのは、月の塔に閉じ込められているらしい女性が一人。
「そうそう、王女。まずは目を閉じて、三つ数えたら目を開いて、きっと王女に逢えるはずだから」
「了解した!」
菫青に促されて金剛も目を閉じる。
「1,2,3,GO!」
いざ!コザル王女の下へ、そして、最終ゴールは月の女神の待つ場所へ。


♫星に願うならばなかったでしょう

月にはワタシ達のことが視える

無くしたものを何処へ探しにゆくの

過去から未来への想いを誓う

月の祈りの魔法を唱える

言葉をワタシに伝えて欲しい

視えずに探してた暑い夏も

ワタシは何から逃げてたのかな

ずっと まだ それさえも忘却のなかで

亡くしたくないと知っている

その時のヨロコビも あの時の淋しさも

月は祈りのすべてをワタシに託し

ココロの底に焼きつく想いに切なくなる

月が満ちゆくまでは届かない

空の上ではアナタは幸福


天上で歌を唄ったなら

その声は遙か遠くまで届いている

手放した数え切れないもの達

だけどそれは次への希望へと

つなげていきたい つなげていこう

アナタの知ってる陰がある

そのことはワタシも同じように気づいてる

だから月の祈りに耳を傾けて

アナタのことをいつも思い出しましょう

ココロはいつもアナタのことを想い

いつでもワタシはアナタに祈り

アナタを想うほど

愛を感じてたように

いつの日もいつの日も

生きてる証

欲しいのはいつもいつも

手に届かないよ

だけど忘れないでね

きっといつかはさ

その時のヨロコビも あの時の淋しさも

月は祈りのすべてをワタシに託し

ココロの底に焼きつく想いに切なくなる

月が満ちゆくまでは届かない

それでもワタシは待ち続けているよ

空の上ではアナタは幸福 ♫
(月の祈り)

どこからか、
唄声が耳に届いた。

第六章「月の祈り」 了

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