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エビカツの話

この文章を読む頃には君はエビカツを食べたくなっているかもしれない
どうかその事を許して欲しい

私は基本的に引きこもり体質である、室内でフィットボクシングをして絵を描き暮らしている、外に出る時と言えば日々の食材を買い家に戻るだけの生活である。良く言えば世相にマッチングした生き方であるが基本的には不健康な生命活動に従事している。

そんな私に機転が訪れる、エビカツだ。エビカツなのである。どうしてもエビカツが食べたいのだ、たまに最寄りのスーパーで売ってる小エビが入ったカツである、何故かたまにしか売っていない。何故なのだ何故エビカツは常備されていないのだ?彩の無い私の生活に必要なのはエビカツであった、私は少しばかり料理が出来る、レシピを調べるとすぐ出てくるサイトを閲覧するとバッター液、パン粉、エビ、はんぺんがあれば作れるというではないか、はんぺん?なんではんぺん?どうもエビをつなぐ為の隙間に砕いたはんぺんを癒着させて成形するようだ、なるほど言われてみればエビとエビの隙間に白い何かすり身のような物が敷き詰められているのを見た事がある、なるほどな今度やってみようと思う。そうだそれは今日じゃない、揚げ物揚げるのめんどくさいし私が食べたいのはエビびっしりのエビカツなのである、賢明な読者の中にはエビフライでいいじゃんと思う人もいるかもしれない、覚えておいて欲しい、狂人に正論など通じないのだ。

そこで不意に数日前ギリギリに確定申告の為税務署に行った帰り道に駅中の総菜屋で真イワシの下にマッシュポテトが敷いてある物を買った事を思い出す、イワシは尻尾が食べられる程香ばしくかつ柔らかく焼きあがっていて下部に敷かれたニンニク風味のクリーミーではあるが粒がしっかりしたマッシュポテトとやや甘めの醤油ベースのソースとの相乗効果でワインがどんどん進む代物であった。違う今はエビカツの話だった。とかくその総菜屋はサラダメインの売り場だったのだがその隣に揚げ物ばかりが置いてある部分が透明なサラダ場越しに見えていたような気がするのだ、今思えば茶色い塊が遠景にぼやっと映っていた事がはっきり思い出せる、ぼやっとしていたのにはっきり思い出せるのだ。

かくして私は平均単価が少しお高い惣菜屋へ向かう、ついでに所得税も払うという大義名分がある、勝った、私は勝利したのである。美味しそうなサラダが並んでいる店舗、牛肉と葉野菜をすき焼き風にした物、ボイルほたての貝柱をからすみと春雨で和えたような中華サラダ、アボカドと豆腐の和え物など色とりどりの誘惑を私はかき分けて奥の茶色い塊のフロアへとたどり着く。

コロッケ、トンカツ、小さいエビフライのグラム売り。いやそれはちょっと今回の趣旨とずれるな、うん。そんな中にエビカツは3つ鎮座している、この世を統べる最強の3柱がそこに集まっていた、生贄に捧げたらゲームに勝利出来る勢いである「エビカツを全部ください」私は高らかに宣言すると「タルタルソースとトマトソースどちらがいいですか?」という思ってもみない質問を受ける、選べる?ソースが選べるだと?しかもどうやらエビカツ1つにつき1種のソースがもらえるとの事である、よしよしそれなら食べ比べと行こうじゃないかと思考を巡らせていた刹那「全部タルタルで」とあまり待たせてはいけないという焦りからか反射で口が動いていた、保守派め、これだから保守派は。ついでにおいしそうだったので牛肉コロッケとコーンクリームコロッケも買ってしまった、これにはソースは一切付かない、エビカツという神は優遇されているのである。

帰路につくなりエビカツを1つ軽くレンジで温めタルタルソースをかけそれを口に運ぶ、エッジの効いたパン粉を歯で砕くとその奥すぐに弾力が確認できるエビだエビがぎっしり詰まっている。顧客が得たかった物はこれである、下味もしっかりついているがエビ食感は損なっていない。再加熱してもこれほどの海老の弾力を維持できるという事は揚げたてはどうなっているのだろう?もしくはこれはエビの形と味を維持している柔らかめのゴムなのかもしれない。またタルタルソースがとても良い確認はしていないがちょっと和っぽい、味噌でも入ってるような奥行きのある旨味はしかしエビカツの良さは全く殺さずに自己主張だけはしてくる、目立たたないのに印象に残りいい仕事をするタイプだ、こいつは出世する。いつまでも味わっていたいエビカツへの気持ちをくっとこらえてビールでそれを流し込む、出かけてから帰って来た喉が欲しがっていた物への私なりの答えを脳が「正解!」と言っている「正解」は「エサクタ」と読むのは社会常識なのでそれだけでも覚えて帰って欲しい。

さてここまでエビカツを買いに行って食べた日記のような物を殴り書いたが実はまだこれから買いに行く所であり後半は私の想像である、願わくば私の、そして君の今晩の食卓にエビカツが並んでいる事を切に願う。

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