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映画『THE FIRST SLAM DUNK』

原作は赤頭の不良高校生・桜木花道が、バスケットというスポーツに出会い、その長身と身体能力、何より本人の努力で急成長していく漫画。
当時、この漫画をきっかけにバスケットを始めた友人は多く、自分も始めないまでも、体育の授業で「合宿シュート!」とか言ってました。我が家に書籍は基本置いていませんが、スラムダンクだけはデジタル化されないこともあり、新装版が並んでいます。

今回、原作と大きく方針が異なるのは、主人公はPG(ポイントガード)の宮城リョータであること。
当時のアニメシリーズで描かれなかった山王戦のティップオフから始まり、原作では描かれなかった宮城の過去を振り返る回想を軸に、原作にない宮城の感情を描き、山王戦決着、宮城のその後をエピローグで〆る。

正直賛否の分かれる作品だと思います。
個人的にも非常に評価の難しい映画だったが、ひとつ言えることは「当時この漫画を読んで興奮していた人たちには、見ることを勧めたい映画」です。面白いので見た方が良いと思います。

しかしながら、本記事内では批判的な項目が多いのでご注意ください。

新しい表現で描かれる『スラムダンク』

本映画では予告から話題になっていた点が2つありました。
・声優のイメージが当時のアニメシリーズと異なる
・アニメ調に縁取りされた3DCG

前者についてはさほど気にならなりませんでした。桜木だけイメージの乖離があって違和感はあったかもしれないです。
後者については手描きでは相当苦戦するであろう枚数の運動シーンを描くことに成功しているメリット、リアリティに寄ってしまい漫画・アニメ的演出が浮いてしまっているデメリットの両方を感じました。
このリアリティにがっかりした原作ファンもおそらく多かったと思われますが、原作でも文字なしで描かれた最後の数十秒はアニメっぽく演出されており、がっかりしたファンも、ここは喜べたのではないでしょうか。ここを見るために「見た方がいい」と自分は言えます。自分もアニメで見たかったシーンだったので嬉しかった。

普段の感想ならこの辺で終わるのですが、以下、中身について主観的に語れる感想が多く、項目別に書き散らします。
根本的にこの映画に対して面白かったと思ったのは事実ですが、思うところがたくさんありました。

演出面

本作では、「原作・脚本・監督」に「井上雄彦」とクレジットされているのですが、演出は他に6名おり、CGディレクターはそれとは別です。
座組がよくなかったのか、何故こんな作りになったのか理由はわかりませんが、原作を意識した画づくりは3Dアニメでは少し浮いて見えて、その理由は時間の使い方にあると思います。画を止めたりスローを作ったりしないと名シーンがヌルッと流れて行って少し寂しかった。
では”リアルに描けた別の作品”として面白かったのかと問われると、試合のシーンにおいては、原作にはない画づくりがなく、CGならではの画を感じることがなかった。時間がリアルに流れていくのに、バスケットの試合として欲しい画が来るわけでもないもどかしさがあった。

OPはロックに始まったが、全編通して音は静かで、BGMと呼べるものは少なく、歓声も寂しかった。このあたりはアニメより、映画を作りたかった意識を感じます。地鳴りのような歓声の中で戦っているイメージだったが、宮城の心理描写を中心に静寂に包まれるシーンが多く、淡々としていた。

先に述べた最後の数十秒は演出として素晴らしかったが、まぁこれは原作が無音で見せているわけで、読んでいた人なら誰でも大体こう演出するだろうという部分であり、むしろ「時計の針の音は良いが、それだけでいくのか」とか、「ボールが手を離れた後の最後のスローが長すぎる」と感じたり、最後のゴールネットの揺れ方をゆっくりスローで綺麗に見せたかったのであろうが、無音で見る綺麗なネットの揺れスローより、スパッとボールがネットを通過する音と大歓声が聞きたかった。…など細かい不満はある。何度も言いますが、このシーンがアニメーションで見られたのは凄く嬉しかった。

物語

宮城リョータを主人公に据えて描きたいのは分かった。
しかし、原作が存在する以上、無理だと感じた。
見ている最中も、ラストシーンに宮城が絡まないことを考えると、どうやってこの映画を終わらせるのかが不安で仕方がなかった。
原作ファンが当然描いてほしいシーンをやるために、宮城以外の4名の過去も扱うのは良い。これは「初見の人のために必要な作業だ」と思って見ていました。正直、あのくらいの回想で初見に理解させるのはギリギリな気がしましたが。
それなのに、最後の花道の回想については原作を読んでいないと全く理解できない突飛な描写であり、「おい、今までの『初見を大事に』って作りは何だったんだ」と、思わずツッコミたくなりました。

では、宮城を主人公で描くという点にウェイトを置いて考えたとき、どうすればよかったのかですが、他4人を脇役にするべきだと思いました。
宮城以外の回想・名シーンをカットする。また、原作のカット割りではなく、宮城視点を軸に描く。これについては実はそれらしい意識は感じるのですが、出来事の後に宮城のリアクションを1回もらう。ということの連続になっていてむしろテンポが悪く感じました。
または、そもそもシナリオを変えるといった思い切った工事が必要だったと思います。これは原作ファンのことを考えると現実的ではないのですが、背中を痛めても躍動する桜木が作品の中で大きすぎて、これをカットするか、例えば”客席に飛び込む桜木の横に、飛び込まなかった宮城”とか、”最後に桜木にパスを出すのが宮城”というくらいの桜木との絡みを新規で作らないと宮城はこの作品の主人公になれません。
実際に本作でも、三井が体育館にカチコミに来るシーンはなく、バスケ部と無関係のところで喧嘩した宮城と三井が二人で体育館に来るという回想でまとめられています。宮城と三井の絡みを端折るための良い変更だと思います。
つまり、そもそもシナリオ変更は行っているので、どうせやるなら”宮城を主人公にするためにもっとやっていい”と思ったという話です。流川で痺れる女学生たちも居ないし、桜木の輪郭をはっきりさせるために存在する桜木の不良仲間や晴子さんも居なくて良いと思います。

ただ、これは宮城を主人公にして山王戦を軸に1本の映画として完成させるために必要な作業を述べているだけであり、「じゃあファンが見たかったのはそれなのか?」と言われると違うと思います。
少なくとも自分が見たかったのは、(山王戦を描くのであれば)原作に忠実な作品であり、そのために原作を読んでいない人のことは置き去りにして良かった。おそらく最も感動できた作り方はこれだと思います。だって山王戦はアニメで見れなかったんだから。
これについては「原作者の井上さんが宮城軸でやりたかったんだろうなぁ」と思いました。もともと宮城にあった設定を描きたかったのではないかと。

タイトル

『THE FIRST SLAM DUNK』の意味について、一説には「はじめて『スラムダンク』に触れる人のための」という解釈もあるようですが、個人的には初めてこの作品でスラムダンクに触れたらよくわからないと思うので、この理由であってほしくないです。
もう一説にある「ポイントガードが「1番」と呼ばれるポジションであるから」の方がしっくりきます。
しかし、その場合「1番のスラムダンク」は意味が分からず、「ゴールにボールを壊れるほど叩きつけるスラムダンク」に出会うところから始まる主人公=桜木なので、『スラムダンク』のスピンオフ作品であっても宮城が主人公なら『スラムダンク』をタイトルに入れる必要はなかったのではないかと思います。例えばですが『THE FIRST』だけでもいいんじゃないかと。
この辺りは劇場に足を運んでもらうための戦略もあったのだと思います。宮城が主人公なのは、作品を見るまで分からなかったので。

3Dアニメーション

『楽園追放』の時にも思ったが、3Dアニメの可能性は多分に感じる。
特に激しいスポーツシーンが延々と続くため、手書きでは膨大な労力になっていたところを実現した功績は大きい。リアリティに寄った表現も悪くはないが、先に述べたように使い方には疑問を感じた。
人物となる被写体が多くなる試合のシーンでは、3Dが足を引っ張った感もあり、観客が若干少なく感じたり、原作にはない表現できているわけではない点も、アニメが作りたかったのかリアルな試合が作りたかったのか分からないと感じる理由です。あくまで、今後も手法としてはアリだなと思います。

まとめ

この映画に問いたいことは「この映画を見てもらうターゲットが誰なのか」ということ。
ファンと、初見と、どちらも意識した取り組みが見られ、やりたかったことも伝わるのですが、全部やり切れてないんじゃないかという疑問があります。宮城を軸にイチから作品を作るのか、ファンが見たかった山王戦を描くのか、どちらかに振り切ってほしかった。
ただ、スラムダンクファンは、ぜひ見てもらいたい。
これが見れて、嬉しかった。



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