Vaporwaveの始祖は中原昌也なのか?

熱が出た。物凄く久し振りな気がする。コロナウイルスの流行もあるので少々自分の体を心配したが、嗅覚にも味覚にも異常は無かった。野菜生活は味がするし、布団は臭い。

「熱ってなってみたら意外と辛いんだよな…」と思いながらTwitterのタイムラインを見てると、鉄砲女郎(@teppo_joro)氏の以下のツイートが目に入った。

そんな考えは始めて聞いた。中原昌也の音楽は3,4年、Vaporwaveは2,3年聴いてると思うが少なくとも今まで自分はそう思った事は無かった。

しかし、少し考えると「ありえるのでは…?」と思った。もちろんVektroidやSAINT PEPSIが暴力温泉芸者のCDを聴いて「This is Vaporwave…」と思った可能性は0に等しいけど、Vaporwaveが持つ諧謔性は中原昌也のそれと似ているのでは?と思ったし、Oneohtrix Point NeverがChuck Person名義でリリースしたアルバム『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』で往年のポップスをサンプリングしたように、暴力温泉芸者は『OTIS』で友人がカラオケで歌う『ミラーマンの唄』をサンプリングしたり『Black Lovers Early Lost Tapes 1988』で謎の女性が歌う『オリビアを聴きながら』をサンプリングしたりしている。(これはただの冗談なのだけれど、何故オリジナルの音源ではなく他人の歌った音源を使うのだろうか…と考えてると、ヒップホップでサンプリングの権利問題を回避する為によく使われる「弾き直し」の始まりは中原昌也だったのではないか!?といく考えが頭をよぎった。)

また、Vaporwave(特にEccojams)でよく使われる、サンプリングする際に極端に曲のテンポを下げる『チョップド&スクリュード』(アメリカのヒップホップDJ、DJ Screwが発明)という技法も中原は既に95年(!!)に暴力温泉芸者として手掛けたスチャダラパーのリミックス、『0718 アニ ソロ (暴力温泉芸者Remix)』の曲の中盤部分で使用している。中原はBoogie Down Productionsとマイナーなノイズのレコードを一緒に買ってきちがい呼ばわりされた経験もあるらしく、当時リアルタイムでDJ Screwのミックステープを聴いていた可能性も否定できない。


しかし、「中原昌也はVaporwaveの始祖か?」と聞かれると、自分はおそらく「いいえ」と答えるだろう。

そう思う理由は「意味があるか無いか」だ。

中原昌也の音源、特に暴力温泉芸者時代のものは、基本的に無意味だ。これは自分の予想だけど、単純に「こうしたら面白いのでは?」という考えだけだと思う。

https://youtu.be/lrXhonD4gYM

上の1曲目は子門真人『ホネホネロック』の途中途中にハウスやディスコのビートが挟まり、更に後半はカンフー映画からサンプリングされたと思われる奇声、「真っ青でした」という謎のナレーション、「ヒヒーン!」という男の声などでもう無茶苦茶…といった感じの1曲だ。

この曲から意味を感じとる事は難しい…というか、おそらく誰にも出来ないんじゃないだろうか。無意味だから。

また、最近のHair Stylistics名義での中原での音源やライブではよく政治家の声をサンプリングしているが、上述のインタビューで楽曲製作について聞かれて「一貫して嫌いな人間が思想を語ってる映像をエディットしてつないだりとか、「え〜っと、そうですね〜」とか「はぁ〜」っとかってくだらない受け答えしてるのとか、特に意味のない相槌の部分とかの音声をサンプリングして、意味のないものにしてやろうとか」と語っているし、実際にそうなっているだろう。

それに対してVaporwaveには意味がある。Eccojamsは音の実験だと捉えられるし、Utopian VisualやMallsoftにはコンセプトがある。サブジャンルのFuture Funkにも「踊らせよう」という気概を感じるし、決して無意味ではないだろう。

https://catsystemcorp.bandcamp.com/album/palm-mall

https://fortune500.bandcamp.com/album/sailorwave

また、Vaporwaveには「消費主義への批判」や「現実社会からの逃避」というメッセージがある。ジャンルの発展とともにそういったコンセプトは忘れられ、先程紹介したFuture Funkのように単なるダンスミュージックと化したものもあるのだが…

それに対して中原昌也の音源は基本的に無意味だ。もしかしたらHair Stylistics名義の近年の作品には「反差別」「反自民党」「反歴史修正主義」というメッセージが込められてるのかもしれない。しかし、そのようなメッセージを感じ取ったリスナーは、それを彼の音源から感じ取っているのではなく、彼の発言やCDのジャケットから感じ取ってるのではないかと自分は思う。中原昌也という人物を何も知らない人間に彼の音源を聴かせて、「この音楽を作った人は差別を憎んでますね。」なんて言うヤツがいたらそいつはきっとエスパーか狂人だ。例外的に「Hate Speech Masturbation」はそういったメッセージが分かりやすく込められているかもしれないが、おそらくこのnoteを読んでいる人は聴いた事が無いと思うし音源を入手する方法も無いので、ここでは割愛させていただく。


最後に、自分は中原昌也もVaporwaveも愛聴しているが、どちらかというと中原昌也の音楽をよく聞いていてVaporwaveについてはあまり明るく無い事を告白させて頂く。中原昌也に関しての文章がやけに長いのはそのせいだ。「ここは違うんじゃないか?」や「自分はこう思う」というような意見は歓迎しているので、コメントかTwitterのDMでお願いします。

参考にした記事、引用したインタビュー等のリンク↓


この文章を書いたお陰で何だか熱が楽になった気がする。ありがとう、鉄砲女郎氏。ありがとう、中原昌也。ありがとう、Artzie Music~!

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