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MOKUZAI WARS episode 1

「新年の希望」

文:大川直也

リノベーションの計画を練っていた正月、新年が明けてすぐのこと。梅ちゃんから連絡が入った。木材の見通しがたった。見立ててくれたのは大川直也のこと4で紹介した智之だった。あれから智之とは年に1度か2年に1度会って、飲み屋に入って近況等を話すような仲が続いている。前に会ったのは、1年半前。梅ちゃんを通じて、都合をつけて取りに行かせてもらうよと伝えた。板はちょうど100枚あると返信が来た。

1月15日。土砂降りだった。誰だ雨男は。弟を連れ立って、借りてきた軽トラで川崎の方にある材木業者を目指す。この軽トラがあれば、ばっちりだ。僕がもし1度過去に戻れるなら、この時の自分に説教をしてやるだろう。
高速に乗る前、ホームセンターに寄ってロープを買った。これで木材を縛れば、ばっちりだ。2度過去に戻れるなら、この時の自分にも説教をしてやりたい。

軽トラはブイーッと音を立てて雨の東名を力いっぱい走った。ワイパーは豪雨を切り裂きながらバインバインいった。珍しいくらいの大雨を降らす巨大な雨雲の中に「心配」と「不安」を見かけた気がしたけど、見なかったことにした。

道路の継ぎ目でガタガタ揺れる荷台の上や、僕が買ったロープより数倍太いロープで縛られたすれ違うトラックの積み荷の中にも「不安」と「心配」を見かけたけど、全部見なかったことにした。目的地直前の橋の上で強風にあおられた時、見かけたどころか窓にへばりついていたけど、見なかったことにした。そして僕らはこれっぽっちの不安も心配もないまま目的地に到着した。待ち合わせの30分前だった。

コンビニで智之への土産に一番高い日本酒を買い、早めに着いたことを伝えた。待ち合わせ時間を10分程過ぎた頃、もうちょっと待っていてくれと折り返しの連絡が来た。30分が過ぎて、1時間が過ぎた。
そうだ、こういう感じだった。嬉しいような、呆れたような気分で色々思い出していたところに連絡が入る。智之の勤務する会社に向かった。そしてまた30分待って、智之が現れた。久しぶりな気はあまりしなかった。

[つづく]


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