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1月31日のリノベーション・大川直也編

文:大川直也

9時に目が覚めた。隣の部屋で眠るくいしんは起きない。何度も起こしたのだけど。支度をして家を出てすぐくいしんからLINEが入った。間の悪いタイミングで目覚めたらしい、Uターンをして迎えに帰った。

牛乳ビルに到着してすぐ、近所で買ってきたマクドナルドのハンバーガーを食べた。電気は通っていない、床には固定されていない木材が敷き詰められている、掃除しきれていないせいか妙にホコリっぽい、壁には用途不明の釘が突き刺さっている。生活感はなく、清潔感があるわけでもない、活気というものはこの部屋の中には無かった。余って端に積んでおいた木材の束に腰掛けハンバーガーを食べて、煙草を吸うと、ほんの僅かに生活が介入してくるのがわかった。無機質で薄汚れた白い空間が、人が暮らす部屋になった。

人が住まなくなった家が傷む理由がいまひとつわからなかっていなかったけど、役割を失ってしまうことが大きな要因なのかもしれない。

梅ちゃんが到着して、作業を割り振った。僕とくいしんはホームセンターに買い出しに行った。ペンチとドライバー、それとペンキと刷毛を買った。牛乳ビルに戻ってくいしんは梅ちゃんと床を剥がした。僕は壁に刺さった釘を片っ端から抜いていった。隣の部屋では二人がなにやらずっと喋っている。

よく見ると結構な数の釘が刺さっていた。カレンダーとか時計を掛けたり、ケーブルを引っ掛けたり、役割があったはずの釘は、ものが全くなくなった部屋に取り残されていた。用途がなくなったものは、ほんの少しの謎と迷惑な実体だけを残す。ロマンチックだけど、片っ端から釘とビスを抜いた。だって眼とかに刺さったら危ないもの。ストーン・ヘンジと違って、釘は眺めていても、面白くないもの。

譜がくれはじめた時間に、釘を抜き終わった壁にペンキを塗ってみた。「おお、白くなる、白くなる」また完成に近付いた。想像通りだぞ。完成予想図を頭の中に描いて惚ける。
外はもう暗くなっている。
くいしんと梅ちゃんはずっとなにかを喋っていた。

※この記事は全文無料の投げ銭コンテンツです。投げ銭はまだまだ完成していない牛乳ビルのリノベーション資金となります。

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