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大川直也のこと6

「ライン下り」
文:大川直也

秩父に行った。2015年のゴールデンウィーク、午前10時に集まった仲の良い5人組は偏差値の低そうなにやけ面をブラ下げている。毎年ゴールデンウィークと、お盆と、正月に見る表情と同じだった。

昔からある約束事に身を任せるのはとても気分の良いことと思う。季節感があってすがすがしい。冬に雪が降ったり、春が過ぎて雨が降るのと同じような、クリスマスにケンタッキーのチキンを食べるのと同じような理由で、ゴールデンウィークに僕たちは集まった。車は秩父へ向かう。目的は特に無い。言えば、初夏の足音を聴きに。もう一度言おうか。初夏の足音を聴きに。

期待通りに、秩父は初夏の空気に満たされていた。あるのは山、川そして空と言う程田舎ではないけど、町の人は口を揃えて「何も無い」と言う。ジャージの中学生がヘルメットをかぶって自転車でどこかへ向かう。SLが煙を吐いて走っていく。

昼ご飯をすませて長瀞でライン下りをすることにした。ハワイでアロハシャツを着るのと同じような理由で。木舟でゆったり川を下っていく。なんとも雰囲気がいい。5人組に会話は無く、別々のことを考えている。舟を降りて、特に感想を述べ合うこともなく、ソフトクリームを食べた。ゴーカートに乗ってはしゃいで、急遽キャンプ場を予約してバーベキューをした。そのまま眠って、1日が終わった。

世の中が奇妙な同調を渇望するようになって、昨日見た写真と同じ色の写真を今日見かける。人と人の同調は過ぎると不気味さを含む。人と土地、人と季節の同調はあまり過不足が無いように思う。自然と一体と言われても腹がたつけど、隣人と同じ服を着たいとも思えない。正月に初詣をして餅を食いたい。

キャンプ場で目を覚ました5人組は、朝食に寄った定食屋の女将さんに教えてもらった鍾乳洞を、帰路につく前に観光した。秋に焼き芋をするのと同じような理由で。


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