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9月はロゴ

文:大川直也

ロゴができました。本来、ロゴやデザインについて細かく説明したりするのは、面白いことではないと思っているけど、TORCHESとしてはどんなに細かいことでも裏側と過程を知ってほしいと思っているので、小学生の頃の思い出とちょっとしたデザインへの思いを交えて書きました。なんとか面白く読んでもらえたら。

小学生の頃、友達と大げんかをした。きっと見覚えがあると思うけど、マジックインキという油性ペンで、模造紙に学級新聞を書いている時。マジックインキのペン先は斜めにカットされていて、長辺で書けば太字が書けるし、短辺で書けば細い字も絵も書ける。僕はこのペンが大好きだった。

新聞制作を任され、友人数人に手伝ってもらい、新聞の作成に取りかかった。僕が大見出しを書いて、友人に小見出しを任せた。友人にはマジックを太く使ってくれと念を押した。大見出しを書きながら、友人の方を見ると短辺を使って細い字を書いていた。軽く怒る。ピリピリした変な空気になる。

引き続き大見出しを書く。友人を見る。細い字を書いている。怒鳴り散らした。そこら辺に置いてあった消しゴムを思い切り投げつけて。太く使えと言っているだろ。友人は何を言っているか全然わからないと言いながら掴み掛かってくる。そこからは小学生の喧嘩そのもので、殴るでもなく蹴るでもなく、取っ組み合いのようなものだった。模造紙はぐちゃぐちゃになって、新聞制作は打ち切り、僕は任を降ろされた。憧れのようなものを伝えることができずに、なにも形にできず終わってしまった。先生が模造紙や散らばった道具を片付けるのを眺めていた。

今思えば、申し訳ないことをした思っているし、なにがどう気に入らなくて、何をどう伝えればいいのかも少しはわかるけど、小学生の頃そんな言語を持っていなかった。きっと未だに、太い字の小見出しがどうかっこよくて、どうしてそれが必要だったのかその全部を説明することはできない。

友人とはすぐに仲直りができたけど、それから僕は共同作業が苦手になった。最初から苦手だったことがわかっただけかもしれないけど。何度か任された学級新聞や休暇のしおりも全て一人でつくった。大人になってデザインの仕事を始めるまでずっと。

理論と計算が全てで、どこにどう意味があって、いかに完璧か。そればかりを語っているとデザインはきっと駄目になってしまう。その理屈の下で、全員がパソコンで同じソフトを使ってデザインすれば、そりゃ同じようなものばかりになるでしょう。僕は誰にもつくれないものをつくりたい。

初期衝動が正しいとは思わないけど、TORCHESのロゴはマジックインキで書きました。マジックインキを太く使って、言葉にできなかった憧れを込めて。理論もなにもない、ただ僕がかっこいいと思って書いたロゴはきっと意味がない。それを誰かに親しんでもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。


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