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長ネギお姉さんの教え

東京が息苦しくなると、ある田舎町に通っている。
電車で日帰りできる、ほどよい距離。
そこでは、数人の友人が古民家や手作りの家で豊かに暮らしている。

先日、古民家の土壁を塗り直すイベントに誘ってもらった。
土壁塗りには人数が必要。地元の人や友人繋がりで20人ほどが参加する。
多くはお互いに初対面だったが
一緒に泥まみれになり、ランチタイムを経れば、もう友達だ。


夕方、心地よい疲労と共に土壁塗りは終わった。
みんなが解散する中、私は「カレー食べたい・・・」とつぶやいた。
別に突拍子もなく言ったわけではない。
このあと、この町でカレー屋を営む友人を訪ねる予定だったので、早く食べたい気持ちが漏れ出たのだ。彼のカレーは世界一うまい。

すると、前にいたお姉さんが「えっカレー!?私も食べたい!」とすごい勢いで振り返った。
今朝は初対面だったけど、作業の中で少しお話した人だった。

「じゃあ・・一緒に行きます?」

名前もろくに知らないお姉さんとふたり、
カレー屋まで数十分歩くことになった。



****

何気ない会話の中で、年齢の話になった。
お姉さんは45歳。 私は29歳。
お姉さんは、
「もうすぐ30歳か。じゃあ、棚卸しをしたほうがいいよ。」
と言った。

たなおろし?

「”20代の間にできるようになったこと”を箇条書きで書き出すの。
 そうすると、自分の成長を実感できて
 ”20代はもうお腹いおっぱい!”って満足して30代に入れるよ。」



***


私が20代でできるようになったこと。

・お酒とタバコが嗜めるようになった
・東京の土地勘がついた
・「テレビドキュメンタリー」という生涯を賭けたいものに出会えた
・カメラや編集の技術をゼロから身につけた
・東京で一生ものの友人、恩師、同僚を見つけた
・大学卒業できた、会社に入社できた
・安定した収入を得られるようになった
・自分の意志で住処を選べるようになった
・エンディングノートを書くようになった
・戦争を学んだ 伝統工芸を学んだ
・アーティストになれなかった悔しさを成仏できた
・予定を詰め込まず、だらだらする時間も楽しめるようになった
・心身に不調が出る前に休みを宣言するようになった
・社内で自分の意見を言えるようになった
・英語を勉強し始めた
・大切な人に向き合う時間を使えるようになった(誕生日祝うとか)
・逆に、疲れる人とは無理して付き合わなくなった
・ファッションを楽しめるようになった
・疲れてても寝る前にメイク落とすようになった
・朝アラームなしで起きられるようになった
・食べたいものを自分でパッと作れるようになった
・貯金の意識がついた
・休日は人といても楽しいし、1人でも楽しい
・コロナ禍でも自分を保ち、役割を果たせた
・「去年の自分より今の自分のほうがいいな」と毎年思う


***


もちろん、まだまだ ”できないこと” のほうが山ほどあって定期的に絶望する。
先日も、地方ロケで出会った年配の方に
「30なのに仕事ばっかりなんて。長女なら孫を作って親孝行なさい、もしかして”ソッチ”系?」
という、八方アウトな発言にダメージをくらったところだった。
なんて古い価値観なの、多様性ってご存知ぃ??wと頭では跳ね除けられているものの、やっぱり、真正面から”できていない方”を突きつけられることは
「お前の人生は失敗してる」烙印を押されるに等しい。

でも、
こうやって「棚卸し」をしてみると、この10年で得たものの多さに安堵する。
一応、ハタチの頃よりは人として成長しているじゃないか。
じゃあ、きっと次の10年でもう少しマシな人間になれるはず。それが亀の歩みでも。




***


素敵なアドバイスをくれた45歳のお姉さんは、
見た目も話し方も明るく、たおやかだった。

彼女は20代の頃、超大手金融でバリキャリだったらしい。
その最中、リーマンショックのリストラ&婚約者の浮気に遭い
30代から大学再入学や海外留学にチャレンジしたそうだ。
今は、再び金融業界でばりばり働きつつ、
土器や古美術にハマり、休日は友人と全国の博物館へ旅行に行くのが趣味なんだとか。



「年を重ねるのは楽しいよ〜、私 今が一番イイ感じだもん」と笑うと、
目尻を跳ね上げたアイラインがすっと伸びた。

私たちはカレーを食べ、げらげら笑い、有機野菜をお土産に電車で帰った。
池袋駅で、お姉さんは「またね」と人混みに消えていった。
歩く姿勢も綺麗だな。
背中のリュックには、さっき一緒に買ったネギがささっていた。



かっけぇなぁ、40代

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