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アラサーテレビディレクターの推し活

テレビの取材にはいろいろあるけれど、
私は一般の方(つまり、芸能人ではない)にフォーカスしたドキュメンタリーを担当することが多い。
 
そして私の場合、自分が担当する番組の取材先は自分で探すことが多い。
この「取材先探し」が産みの苦しみの第一弾だ。
 
芸能人へのオファーであればタレント事務所に相談すればいいのだが、
一般の方はそういうわけにもいかない。
人伝てに紹介して頂いたり、雑誌や新聞やネットを読みまくったりするのだが、このリサーチに数週間かかるときもある。
自分で取材先を選べるからって、誰でもいいわけではない。
時間がかかればかかるほど、大海に放り出されたように心細くなる。

えーこれまじで一生見つからんのちゃう?もうお手上げやわ、無理やってこの番組〜〜〜

 
でも、突然 ぴーーーーーん!!! とくる瞬間がある。
モーセが海をパッカーンと割ったように「その人」に出会うのだ。
 
まるで一目惚れ。
瞳孔がクワッと開き、体温がちょっと上がる。この人だ。
「私、あなたを撮りたい!!!!」と叫びたくなる。
 
その瞬間がいつくるのか、自分でも予測できない。
電話でお話したときの声の感じだったり、
zoomが繋がったとき画面にパッと映った表情だったり、
SNSで見かけた一枚の写真だったり、ブログの一節だったり。
とにかくこの "ぴーーーーーん!!"が訪れると、もう止まらない。
上司に「聞いてくださいこの人めっちゃすごいんですぅぅ」と早口で語りまくる。
プロフィールを資料にまとめる。突然文字数オーバーする。
取材依頼の文面は、まるでラブレターのよう。
相手からしたら、見ず知らずの女に勝手に惚れられてキモいと思う。申し訳ない
 
 
 
もちろん、最終決定にはご本人の許可や上司たちとの協議・判断を経るので
残念ながら諸般の理由で取材が叶わないときも少なくない。
だからこそ、無事取材が決まったときは踊りたくなるくらいハッピーだ。
思いは加速し、寝ても覚めてもその人のことで頭がいっぱいになる。夢にも出てくる。
 

もうこの時点で、私にとって相手はただの「一般人」ではない。
松本潤くらいキラキラスーパースターに感じている。



取材が始まり、ついにお会いできる日はめっちゃ緊張する。めっちゃ前髪直す。
だって、生のご本人に会って、名刺交換をし、私の存在まで認知してもらえるのだ。堪らん。
さらに撮影では 日常を見せて頂き、インタビューで何時間も対話し、
ときに 厳しい試練を乗り越える瞬間をそばで見守らせて頂く。
推しの見たことない顔を間近で見れるってやばくない?


 
撮らせて頂いた映像は宝物。数週間かけて大切に編集する。
何度も映像を見返しているうちに、だんだん喋り方や表情の癖まで覚えてきて、さらに愛おしくなる。
(相手からしたら本当にキモいと思う。申し訳ない)
 
私が惚れ込んだこの人の魅力が、どうか多くの人にも伝わりますように。
祈るようにナレーションを書く。



 
***
 
 

当たり前だが、ディレクターによって仕事へのモチベーションは異なる。

真実を暴くため、
社会問題を解決するため、
消えゆく歴史を記録するため、
事前の尊さを感じさせるため、
視聴者を笑顔にするため、
異文化の面白さを伝えるため・・・
同僚たちみんな それぞれの志を持って仕事に向き合っている。

一方私は、一目惚れと推し活を繰り返しているようなもんだ。使命感とかまじでない。


先日、学生に「ドキュメンタリディレクターに必要な能力はなんですか?」聞かれて
「何かをめっちゃ好きになる能力」と答えてみた。


まぁ、ぶっちゃけ、
私が取材相手に抱く「めっちゃ好き!!!!」の感情は
仕事のために意図的に自分を駆り立てている面もあるので、
番組が終わったあとはスッと情熱が落ち着く。
(だからこそ、その後、取材先と個人的に友人になれたりする)
あの ぴーーん!! もプライベートでは感じたはことない。


でも、やっぱり取材相手に出会ったときの興奮はホンモノで。

こんなハードな仕事
愛を原動力にしないとやってられませんからね。
 

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