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エッセイ集―心のままに言葉を紡ぐ―

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心のままに語ったエッセイ集。嘘偽りのない本音を、言葉にのせてぶつけています。
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#コラム

笑わせるより笑いたい

 おもしろいことを言って人を笑わせる能力が、私にはまるでない。誰かが放った一言が、爆笑の渦を巻き起こしているのを目の当たりにすると、まるで全世界が認めるほどの偉業を成し遂げた人でも見るかのような尊敬の眼差しを向けずにはいられない。  それと同時に、「自分はなんてつまらない人間なのだろう」と、自分を責めてしまう。ユーモアの一つでも言うことができればいいのだが、真面目な返ししかできずに、場の雰囲気を静めてしまったことも少なくない。だから、おもしろいことを言える人が羨ましくて仕方

好きなものを見つめる

 私は、女性が好きだ。この「好き」というのは、恋愛対象として見ているということなのだが、もっとわかりやすく言えば、レズビアンだ。「レズビアン」という言葉に少し抵抗があるので、あえて回りくどい言い方をしてみる。  「レズビアン」と言うと、なんだか妖艶な響きがするように感じる。少し性的な感じが見え隠れしているようで、その言葉を使うのにためらってしまう。「女性が好き」と言ったほうが、マイルドな感じがして、なんかいい。そう思うのは、「褒め言葉以外は何でもオブラートに包んでほしい」と

職場でやらかしてしまった恥ずかしい話

 大問題が起きた。なぜ、家を出るときに気づかなかったのだろうか。私はひどく後悔した。  今日、私は家にスマホを忘れてしまった。職場のお昼休憩は、皆、外に出るわけでもなく、順番に休憩室で取ることになっている。その日のメンバーによって、お昼休憩が賑やかになることもあれば、沈黙の時間が流れることもある。今日のメンバーを確認してみると、後者になることが予想される。  よりによって、こんなときにスマホを忘れてしまうとは......。タイミンが悪いにも程がある。こうなっては、もう仕事

片付けられなくたって

 ――片付けの最中、出てきた物を見て思い出に浸る人に苛立ちを覚える  以前、「片付けの得意な人が、片付けられない人に対してイライラすること」について、テレビでこんな意見が出てきたのを見たことがある。私はまさに、イライラされる側の人間だ。  片付けられない人間なりに、何度も部屋を片付けようと試みる。その度に、ゴミなのかそうでないのか分からない物の山を目の前にして、気が遠くなる。収納スペースの中にぎゅうぎゅうに詰め込まれた物をなんとかしなければならないと、私だって焦ってはいる

幸せを一緒に

 私は猫と一緒に暮らしている。一緒に暮らし始めて、15年が経とうとしている。  ***  肌寒い雨の日のことだった。仕事から帰ってきた父を玄関まで迎えに行くと、そこには「成猫」と言うには少し小さい一匹の猫がいた。白と黒に少しだけ薄茶色の毛が混じっていて、黄色いくりっとした目をしている。痩せ細っているが、野良猫にしては毛並みは綺麗で、大人しく父の後をついて回っている。  父は「猫は薄情だから嫌いだ」なんて言っていたが、愛くるしく擦り寄ってくる猫を目の前に、冷たく突き放すこ