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私は猫と一緒に暮らしている。一緒に暮らし始めて、15年が経とうとしている。 *** 肌寒い雨の日のことだった。仕事から帰ってきた父を玄関まで迎えに行くと、そこには「成猫」と言うには少し小さい一匹の猫がいた。白と黒に少しだけ薄茶色の毛が混じっていて、黄色いくりっとした目をしている。痩せ細っているが、野良猫にしては毛並みは綺麗で、大人しく父の後をついて回っている。 父は「猫は薄情だから嫌いだ」なんて言っていたが、愛くるしく擦り寄ってくる猫を目の前に、冷たく突き放すこ
思えば、あまり幸せと言える人生を送ってはこなかった気がする。父親を自殺で失い、自分は精神疾患にかかり、やっとのことで就いた正職という地位も失った。別に、不幸自慢をしたいわけではない。世の中を見渡せば、もっと悲惨な状況に置かれている人なんてたくさんいることだと思う。だが、それらの出来事は、私にとってはすべて耐えられないほどつらかった。この人生の中で、生まれてよかったなんて思ったことは一度たりともない。 それでも、人生の中で幸せだと思う瞬間は何度もあった。好きなアーティスト