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春、戻る - 瀬尾まいこ

確信するようなことのないまま決めた結婚を3ヶ月後に控えた春、「兄」と名乗る自分よりずいぶん若い青年が目の前に現れる。

「私」の戸惑いをよそに結婚に関して心配し頼んでもないのに何くれとなく世話を焼く「おにいさん」の存在を、婚約者もまわりもあっさり受け入れてしまう。

おにいさんのことをどこかで知っている気がするけれど、それを思い出すには重く苦い思い出が立ちふさがっている…

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大好きな瀬尾まいこさんのお話です。彼女の書く話は、いつも人々がどことなくおおらかで朗らかで、どんなに切ないテーマでも軽やかで愛おしい。
涙もろい私は本を読んでよく泣くけれど、”おにいさん”の名前が明かされるあたりからだいぶ泣きっぱなしでした。

瀬尾さんらしい不思議な名言が飛び出て来るのも相変わらずで好き。
”おにいさん”と”私”、2人の不器用な人間が人生の、振り返ってみればありきたりな、「挫折」にもう一度向き合うための優しいお話です。

私はよく好きな小説の好きな一文を書き留めながら読むのですが、以下は本文からの引用です。
もしよければ、先に本を読んでください。

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「さくらって、いまだに先に生まれたほうが兄っていうシステムを導入してるの?」

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「僕は手の中を見せたよ」
「え?」
「僕は話しちゃったってこと」
「何を?」
「僕の内側みたいなもの」
おにいさんは静かにそういって微笑んだ。

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だけど、何でも作れるおにいさんは、あちこちが本当に不器用だ。

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「帰りはまた違う景色が見えますよ」

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「どんな苦しいことでも終わりが来るんだなあ。明けない夜はないし、神は食べられるあんかけしか与えない」

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新しいことに踏み切る時は、落ち着かなくなる。(中略) 次々といろんなことが閉じられていくのだ。どんな決断をしたって、何かを変えるときにはこれでよかったのかという気持ちがついて回る。

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私はどこかですでに答えを知っていて、それを手に取る時が来ただけなのかもしれない。

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どんな時だって、自分を知っている人がそばにいておいしいものがあれば、お腹はちゃんと減るのだ。

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私も、自分で思い描いた未来を歩くために、もがいていた。自分で決めたはずなのに、その道を歩くのが困難だった。でも、描いていた道を降りてから、見つけたものはたくさんある。

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