見出し画像

暗いところで待ち合わせ - 乙一

ひどく内気なまま視力を失って1人古い家に閉じこもり続ける女性と、ひどく内気なまま職場で孤立してしまい、そのうちにいじめの加害者に殺意を抱いてしまった男性。

盲目ゆえ外に出ることを怖がり、家の中の暗闇に閉じこもり孤独に死に行きたいと思っている彼女の家に、近くの駅でおきた”殺人事件”の容疑者として追われる男性が逃げ込んでくることから物語が始まる。

やがて彼女はその存在に気付き、彼も気づかれたことに気づく。それでも、ひっそりとお互いの存在を認め合いながら息を潜めあったような奇妙な同居生活が始まった–

---

表紙はホラーぽいですが全然ホラーじゃないです。

一度読んだことがあった気がしたのですが、すっかり内容を忘れ去っていて見事に驚かされました。
学生時代ひどく内気だったわたしは、他人がいるだけですくみあがるようなあの気持ちを思い出しながらちょっと鬱々とした、でも孤独で少し気楽な2人の”同居生活”を読み進めていたのですが、その2人が言葉も交わさないお互いの存在に少しずつ心を動かされるのをほのぼのとした気持ちで読み終えるのかと思ったらそう来たか。

綿密に日常回を重ねておいて最終章にかけて怒涛の伏線回収していく形式の作家さんはたまに読みますが、ミステリーもそんなに読まないし脳内構造が単純なので見事にミスリードさせられてはぁー!!ってなります。楽しいです。

最後には少しだけ世界が明るくなる感じのお話です。きっと。

以下は小説の中から気に入った文をところどころ書き留めたものです。物語のネタバレはありませんが、是非とも本編でお楽しみください。

---

日ごろから、自信のかけらもなかった。自分の姿は、どこかがおかしいのではないかと、いつも不安だった。どこかで笑い声が起こると、自分が話題にされているのではないかと、いつも怯えていた。
(中略)
いつも、かろうじて立っていた。外にいると、ただ歩いているだけでも、全身に傷を負った気がした。

---

「カズエ、外は楽しかったよ…!」
彼女にそう言わなければ、胸がパンクするようだった。
それ以上、どんなに頑張ってもまともに話せそうになかった。

---

強くなったのか、弱くなったのか、わからない。きっとその両方なのだ。ミチルはその不安定さを、愛おしく思った。

---

世界があなたに対して行った仕打ちを、どうやって慰めていいのか私にはわからない。体に腕をまわして抱きしめる以外に、どんなことをしてあげればいいのかわからない。
(中略)
だからもう、これ以上だれも傷つけないでほしい。恨まないでいてほしい。少し時間がかかるかもしれないが、あなたにひどいことをしたこの世界を許してあげてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?