出会いの日 #03
洗面所の床に耳を押し当ててみた。
やはり、この下から赤ちゃん猫の鳴き声がする。
もう一度野菜室へ頭を突っ込んで覗き込み、
洗面所の床下方向を懐中電灯で照らしてみた。
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見えない。
というより、野菜室がある台所側と洗面所側の間には家の中心を支えているのであろうコンクリートの基礎があった。
だから、洗面所側の床下を見渡してもコンクリートしか見えなかった。
さて、、、どうしよう、、、
考えた。
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相当考えた。
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覚悟を決めた。
穴を開けるしかない。
洗面所の床に穴を開けて、そこから救出するしかない。
しかし、この作戦を決行するにはハードルがある。
親の承諾だ。
今住んでいるのは私の祖父母の家。
そして、持ち主は私の母親と叔母である。
私は母親に電話で状況を説明した。
「迷い猫のために家に穴を開ける。」
普通ならNOだろう。
だが、私には自信があった。
先ほど「ハードル」と書いたが、実は私にとってハードルとは思っていなかった。
母は、人生の多くを動物と過ごしてきていた。
犬、猫、インコ、リス、ハムスター、亀、、、
誰よりも生き物を愛する母である。
母の答えは、
「業者を呼んででも穴を開けて、助けてあげなさい。費用は出してあげる。」
この答えに私の腹は決まった。
よし、洗面所の床に穴を開けて、赤ちゃん猫を救ってあげよう。
自らの手で。
家には、庭の木を切るチェーンソーがあった。
それを床に押し当てると、ものすごい爆音とともに木屑が洗面所一帯に舞い上がった。
気分は、さながら正義感の強いレスキュー隊。
「こりゃ、後で木屑を片付けるのが大変だ!」と笑いながら、自分の自己犠牲心に少し酔っていたように思う。
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縦横30cmくらいの正方形に穴が空いた。
やはり、床下を覗き込むのは勇気がいる。
頼む、赤ちゃん猫以外は目に入らないでくれと祈る。
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何もいない。
懐中電灯で遠くまで見渡すが、やはり何もいない。
角っこの方に何かの骨っぽいものが見えたが、一旦記憶から消した。(つもり)
冷静に考える。
そりゃ、こんな爆音を立てながら、高速回転している刃が頭上から出てきたら逃げるよな…
捜索開始からおよそ3時間が経っていた。
穴を開けることが最後の手段と思っていた私は途方に暮れた。
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途方に暮れてどのくらい時間が経ったか、ここはよく覚えていない。
15分くらいだったか、30分くらいだったか。
その時、また鳴き声が聞こえた。
野菜室の方からだ。
慌てて懐中電灯を手に、再び野菜室を覗き込んだ。
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