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【随筆】血縁と匿名性について その1

この数ヶ月いろんな意味で濃密なことが次々と起こる。

昨晩父から電話がかかってきた。
話せる機会もあまりないが病床は電話禁止なので移動しようかと思ったんだが、入院以来一人で歩かない契約なのでもたついているうちになんとなく父といつも通りの言葉を交わして電話を切った。

今回二度目の入院でこれまで何十年も胸に秘めていた色々なことが色々な人にバレてしまった。
もはや誰が私の何をどこまで知ってしまったのか私自身わからないし、悪いことばかりでもない。長年の胸の支えのいくつかが外れた。

私は極端に無口なくせに、どうも独り言を言う癖があるようで、それが面識のある人たちに嫌われる要因の一つだった。昨年入院した際にも私が夜中に一人で喋っている、というクレームが何人かからついたが、今回はそれがない。理由の一つは通信料金無視でiPhoneでTwitterなどに独り言を呟いているからだが、それ以前に独り言を言う状況自体が崩壊してきた。自分と周囲との間の見えなかった壁が崩れて来た。

これでよかったのだ。

三年前に母が亡くなって心のバランスが取れなくなっていたが、もがいているうちに失敗を積み重ねてしまい、これまでなんとか維持していた壁が崩れ始めた。崩れかかった古い壁は直すより崩してしまった方がよい。その方がせいせいする。

学生時代、最初に就職した会社、今の会社、家族、親戚。いろいろな人間関係の中で私が作った壁はいつの間にか巨大な迷路になってしまい、自分自身がその迷路に迷い込んだまま抜けられなくなっていた。一番の元凶は私自身だが、私自身以外の中での全ての原因は明らかだ。全ての原因とは何か。

それは血縁だ。

壁を作ったのは私自身だが、その壁をこれまで崩せなかったのはそこに血縁という異質の見えない壁があったからだ。それが私自身が作り出した迷路のような壁を分厚くコーティングしていた。

例え話をしよう。
ある人に殺人歴のある血縁者がいるとしよう。そのことで彼は長年悩んでおり出来ればその話を誰かに聞いてもらいたい、それで自分まで世間から白い目で見られてもかまわないと思っているとしよう。
では彼はそれを自己責任で自由に他人に話せるだろうか。実際には難しいだろう。
彼に兄夫婦がいたら、その人は兄に止められるかもしれない。兄はそれを世間で知られたくないかもしれないし、嫁の親族はそのことを知らないかもしれない。あるいはその血縁者の娘は交際相手との婚約をしたばかりかもしれない。
彼は彼らの意向を無視して勝手に話せるだろうか。
血縁者とは「他人であって赤の他人ではない人たち」だ。
血縁者 = !(赤の他人 − 他人)
私たちはお互いにその血縁で結ばれている。
なお血縁者には広義で言えば義理の親族も含まれる。
また天涯孤独な人にはその制約がないが、それ以前にこの問題自体が存在しない。

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