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ランナーが1塁にいては振り逃げできないが2アウトだったら振り逃げ可能なのはなぜか

まず振り逃げの定義を確認しよう。

振り逃げ(ふりにげ)とは、野球において、捕手が第3ストライクが宣告された投球を正規に捕球できなかった場合に、三振で直ちにアウトになることを免れた打者が一塁への進塁を試みるプレイを指す。この名称は便宜的につけられたものであり、正式名称は存在しない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%AF%E3%82%8A%E9%80%83%E3%81%92 より

実際のプレーとしては
・第3ストライクを捕手が落球もしくはワンバウンドで捕球した場合は、打者は1塁に進塁する権利が与えられる。
・打者が1塁に進塁するまでにボールを持った野手が打者にタッチするか、ボールを持った野手が1塁ベースに触れれば打者はアウト。
となる。

問題は振り逃げができる条件だ。振り逃げができる状況は
一塁に走者がいない。または、一塁に走者がいてもアウトカウントが二死である。
とされている。

野球経験者や野球観戦に慣れた方なら、上記条件はご存知であろう。

では、なぜ1塁に走者がいる場合は振り逃げができないのか、さらに1塁に走者がいても2アウトならなぜ振り逃げの権利が与えられるのか、お考えになったことはあるだろうか。

・1塁に走者がいる場合にはなぜ振り逃げは認められないのか

逆に考えてみよう。1塁にランナーがいる場合に振り逃げが可能なら、何が起こるか。
振り逃げの権利が与えられるのは「3ストライク目を捕手が正規に捕球できない」場合である。では、1塁にランナーがいる場合、3ストライク目を捕手が(故意か否かを問わず)足元に落としたとしよう。

ボールを拾った捕手はまず1塁に送球する。

捕球した一塁手はベースを踏まずに1塁ランナーにタッチする。

打者が1塁に進塁する権利が与えられているため1塁ランナーは一塁ベースに触れていてもタッチされればアウトとなる。

その後一塁手はファーストベースを踏んで打者走者をアウトにする。

※その他、捕手は1塁に送球するのではなく、2-4-3や2-6-3と転送することによるゲッツーを狙うことも可能だ。

つまり、1塁にランナーがいる時に振り逃げが可能なら、捕手が故意に正規捕球せずダブルプレーを(複数ランナーがいる場合はトリプルプレーをも)成立させることができる。これを防ぐために「1塁にランナーがいるケースでは振り逃げの権利が発生しない」というルールが存在する。

主旨は「1つの三振で複数のアウトを成立させない」である。


・1塁にランナーがいても2アウトなら振り逃げが認められるのはなぜか

上記の主旨を踏まえるとおのずとご理解いただけるだろう。答えは「2アウトから複数アウトは成立しない」からである。

ノーアウトもしくは1アウトで1塁にランナーがいた場合、バッテリーにとって3ストライク目を故意に落球することにより、複数アウトをとれる可能性が発生するメリットがあるのは上記のとおり。

しかし2アウトの場合、バッテリーにとって捕手が故意に3ストライク目を落球することにまったくメリットは無い。三振3アウトチェンジがベストな結果であるはずだ。あえて落球し1塁への送球動作が必要になると、悪送球などのリスクが増えるのみである。

であれば、1塁にランナーがいようが2アウトなら、通常どおり打者に振り逃げのチャンスを与えるのは問題無い、というのが回答である。


このルールを理解いただいた上で見ていただきたいプレーがある。

2007年 夏の高校野球神奈川県大会決勝。4回表2アウト1・3塁。ランナーは1塁にいるが2アウトなので振り逃げは成立する場面である。

打者が空振りした3ストライク目はワンバウンド。ワンバウンド捕球は「正規捕球」に当たらず、打者には振り逃げの権利が発生する。ここで捕手は「ランナー1塁だから振り逃げはない」もしくは「ワンバウンドでの捕球は正規捕球と誤認識していた」のであろう。空振り三振で3アウトと判断し、打者にタッチせずベンチへ走る。

しかし、ベンチから振り逃げが可能であることを指示された打者は1塁へ進塁、どころかダイヤモンドを1周。2人のランナーとともに打者走者も生還するという、世にも珍しい振り逃げ3ランが成立した。


「1塁にランナーがいれば振り逃げできない。ただし2アウトなら1塁にランナーがいても振り逃げ可能」とルールを丸覚えしても良いが、その根拠を知っておくことによってより深く野球を理解していただけるのではないだろうか。

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