#ソフトボール 日本代表の奇跡のダブルプレーはいかにして生まれたか

打球が内野手の捕球できる可能性があるライナーとなった場合、塁上のランナーは打球が内野手に到達するまでは帰塁できる距離を確保しておかなければならない。

もちろん、ノーバウンドで内野手が捕球した場合に帰塁できるよう準備しておくためである。

このあと内野手が捕球するか否かによってランナーの判断は

・内野手が捕球→帰塁
・内野手が捕球できず打球が外野に抜ける→進塁

となる。ここまでは野球やソフトボールのルールをよくご存知の読者にとっては、釈迦に説法であろう。


踏まえて、何度もご覧になられたであろう東京オリンピックソフトボール決勝6回裏1アウト1・2塁という場面で起こった、奇跡のダブルプレーと言われる一連のプレーを思い出していただきたい。

まず強烈なライナーが三塁手を襲う。三塁手は捕球を試みるも打球の速さにグラブワークが間に合わず、左手首あたりにボールを当てる。三塁手の左手首を襲ったボールはそのまま大きく右後方へ弾み、遊撃手がノーバウンドで捕球する。この時点で打者はアウト。

そして遊撃手がセカンドへ送球。飛び出していたセカンドランナーは戻ることができずダブルプレーが成立。日本は大ピンチを無失点で切り抜けた。


問題は、なぜ2塁ランナーがライナーであるにも関わらず、帰塁できないゾーンまで歩を進めてしまったのかという点である。

ここでいま一度このプレーをご覧いただきたい。卓越なカメラーワークがそのすべてをとらえている。

ライナーが三塁手を襲う直前まで、一瞬ではあるが2塁ランナーが歩を止めていた形跡があるのがおわかりいただけるであろうか。ランナーはこの段階では記事の冒頭に記したセオリー通り、帰塁できるよう準備していたわけだ。

ところが打球は三塁手に捕球されることなく、その体の一部に接触し大きく後方に弾んだ。私見ではあるが、このようなプレーの場合、ほぼ確実に打球は外野に抜けて三塁強襲レフト前ヒットとなる。

2塁ランナーも私と同じ判断をしたのであろう。ボールが三塁手の手首を弾いた瞬間、進塁するべく3塁方向へスタートを切るのが動画でも確認できる。

ここで長年野球を見てきた私にとって(そしておそらくアメリカの2塁ランナーにとっても)、めったに見ることができない光景が展開される。

三塁手がボールを弾いた先には、遊撃手が待っていた。遊撃手渥美万奈は左手をいっぱいに伸ばしダイレクトキャッチする。レフトに打球は抜けると判断し、あわよくば本塁突入まで目論んでいた2塁ランナーは帰塁できるはずもなかった。


この大会を通じて、日本チームはエラー0。見事な守備力である。私たちが想像できないような猛特訓の成果であろう。そしてその猛特訓の過程で、今回のような「1000回に1回も発生しないようなプレー」のためのバックアップ動作が、体に染みついていたのであろう。

三塁手が捕球できない可能性がある。グラブに当てて弾く可能性がある。その時自分はどう動くか。その準備があって初めて生まれた驚異的なバックアッププレーである。

そして、飛び出した2塁ランナーを責めることは誰もできない。それを証拠にさきほどの動画内、1塁ランナーの動きもご覧いただきたい。

彼女も2塁ランナーとまったく同じ動き、すなわち三塁手にボールが接触した瞬間に2塁に向かってスタートを切っている。つまり、誰がみても外野に抜けると判断してしまう打球であったということだ。


金メダルを決めたプレーと言っても過言でない、この奇跡のダブルプレー。時間にすると2秒も要していない一瞬の出来事である。しかしそこには、前回のオリンピックから数えて13年間の、両チームの鍛錬と執念が生んだ我々凡人には創造しえない何かが、凝縮されていたのである。


東京オリンピック2020 ソフトボール決勝戦
日 本 0 0 0 1 1 0 0 2
米 国 0 0 0 0 0 0 0 0
【日】上野、後藤、上野
【米】オスターマン、カルダ、アボット

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