あなたに市場価値はない

 自分の理想に合う相手が見つからないという発言に対し「あなた自分の市場価値わかってるんですか?」とツッコむやりとりが、Twitterを見ていれば嫌でも目に入ってくる。ツッコむ側の気持ちはわからないでもない(余計なお世話は誰でも無自覚にやっているものだ)が、しかし「自分の市場価値を理解しているか?」というその指摘は全然的を得ていないという部分は問題だろう。

 理由は簡単で、あなたがパートナーを欲して探しているその時、あなたは恋愛相手探しというフィールドの市場に並べられている商品ではないからだ。あなたが当てはまるのは市場に並べられて他の品々と見比べられる商品ではなく、一軒一軒歩いて回る訪問販売の商品か、もしくは無人販売所に並んでいる野菜なのだ。

 本当に出会い系やマッチングや結婚相談所がその市場価値と呼ばれる基準によって動いているなら、出会い系でもマッチングでも結構相談所でも「絶対に」女性ならバストサイズが大きく年齢が若く体重が軽く収入が多い順にカップリングが成立していく。なぜなら市場価値というものは必ず、誰にでも優劣が判断できてしかも条件が良い項目だけで構成されるからだ。「性格が良い」とか「住所が近い」とか「かわいい」というのは人によって判断基準が異なり絶対に揃う事はなく市場価値に組み込まれる事はない。だが、Eカップは常にDカップより大きく、23歳は24歳以上より必ず若い。要するに数字もしくは順番でより良い方がどちらか比較できるものしか、市場価値としては認められないのだ(そしてまた、バストサイズが小さい方が良い、年齢が高い方が良い、体重が多い方が良い、収入が少ない方が良い、といった意見が多数派となり市場価値として認められた事もない)。そして現実に起きている結果は、個性と呼ばれる市場価値とは何ら関係ない部分を気に入った同士が、市場価値に該当する要素についてはそこそこで充分だと割り切ってお付き合いしていくというカップルの成立だったりする。

 これが日々の交友関係や職場やコミュニティで知り合った相手となれば、いよいよ市場価値など関係なくなる。比べられる対象が他に存在しないのだから、あなたの個性で良いところを見せて(できれば悪いところまで隠さず見せて)比較ではなく単純な好き嫌いだけで選んでもらえば良い。この場合に振られる理由は市場価値ではなく単に相性が悪かっただけであり、誰かと比べて劣っていると言われた訳ではないのだからあなたが気を落とす理由にもならない。訪問販売は本当に気に入った人なら大いに喜んでくれるし、無人販売所の野菜は店頭に並べるには不格好かもしれないが安くて美味しいと気に入って選ぶ人もいる。市場で値段ばかり釣り上がった商品を買って、高価な買い物をしたぞというその満足感は果たして長く続くだろうか。

 市場価値というものは、その市場を利用する人、もっと言えばその市場での売り買いが増える事で手数料を稼げる人によって操られるものだ。
「恋愛するならこんな相手と付き合いたいですよね!」
「幸せはこういう相手と付き合えば手に入りますよ!」
「ほら、ウチにはそんな相手がいっぱい揃ってますよ!」
 そう言っているのは本当に相手を見つけたくて集まってくる恋愛当事者ではない第三者ばかりである事を見落としてはならない。

 自分の幸せを他人が決めた価値で測る必要なんかない。相手を選ぶ審美眼はあなた自身が良いと思える感覚だけで決めれば良い。そしてそれはお互い様の話なのだから、他人が勝手に決めている市場価値なんかいちいち身につける必要はないのだ。市場価値に囚われた人と決別せよ。聞く耳など持たなくていい。あなたに市場価値はない。あなたに市場価値なんかなくていい。

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