「切り絵で世界旅」ノートルダム大聖堂のガーゴイル(パリ)/グロテスクな怪獣「ガーゴイル」の謎とは?
パリ発祥の地、シテ島にそびえ立つノートルダム大聖堂は、ゴシック様式最高峰の建築物である。バラ窓に配されたステンドグラスをはじめ見どころは多い。だが私が一番興味を抱いたのは、頭に角が生え背中に翼を生やしているグロテスクな怪獣「ガーゴイル」の存在だ。屋上から見下ろすと、テラスや屋根など至る所に見られる。「ゴシック」という用語は、かつてルネッサンスの人々に「ゴート人のように野蛮な」と皮肉を込めて使われていたところから派生したらしい。そう考えれば、ガーゴイルがゴシック本来の野蛮さをより際立たせているようにも思えた。
帰国後に調べたところ、ガーゴイルの機能は怪物の形をした雨どい(排水口)だと知る。12~14世紀にかけて200年がかりで建てられた大聖堂は構造上、屋根から流れ落ちる水が壁面を濡らして漆喰を侵食してしまう。そこで、雨水が壁面の漆喰を侵さぬように、外壁から離れて水を落とす吐水口が必要となった。
ではなぜ怪獣の姿にする必要があったのか? ガーゴイルは雨水を排出する実際的な機能のほかに、人々に恐怖心を与えながら悪霊を外へ吐き出す役割と、悪霊の侵入を守る役割をもつ。つまり「魔除け」としての意味があったのだ。
ちなみに、切り絵で描いた鐘塔の基部の欄干からパリ市街を睥睨するように据えられた悪魔のような像は、雨樋の用を成しておらず、正確にはグロテスクとかキマイラと呼ばれているそうだ。ガーゴイルひとつ取り上げても奥の深い世界だ。
そのノートルダム大聖堂も、2019年4月15日に発生した原因不明の火災で大きな損傷を受けたのは記憶に新しい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?