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「切り絵で世界旅」生ケチャ、初体験(バリ島/インドネシア)複雑なリズムと神憑ったエネルギーに魅了される

 パリに行ったことはあるが、バリは初めてだった。最大の目的は、インドネシアのバリ島で行われる舞踏劇「ケチャ」を観ることだ。

 ケチャを知ったのは、フェリーニの映画『サテリコン』だった。迷路をさ迷っていた主人公にミノタウロスが襲ってくる。そのときの音響効果として、「チャ、チャ、チャ」の不思議なかけ声が、それも多数の男性の声が重なって悪夢のように繰り返されたのだ。後に、それがバリ伝統のケチャダンスで使われるものだとわかる。テレビで見たりもしたが、やはりライブの魅力には勝てないはずだと思い、ケチャを体験すべく、バリへと旅立った。

私の目当ては、女性の踊り手ではなく、周囲を取り囲むおじさんたちが発するかけ声だ

 さて、念願の生ケチャ鑑賞をウブドで実現できた。すっかり日が暮れた午後7時半。小雨が降っていたため、小屋の下で行われたが、簡単な舞台装置でも、十分雰囲気は伝わってくる。ヤシ油を燃やしただけの燭台を中心に、レサ・アダサンマハン村の男性たち60人ほどが輪になって、ケチャを始めた。いやあ、迫力満点だ。チャ、チャのかけ声も、4つのパートごとに掛け方が違い、それが同時に発せられると、複雑なリズムが味わいを増し、神憑ったエネルギーが渦となって発散された。

 本来は、宗教的な儀式から生まれたケチャだったが、1920年代に観光用に、インドの叙事詩「ラーマヤーナ」を取り入れたため、様々な人物が登場し、スートーリーらしきものが展開される。

 約1時間、男性たちはずっと声を出し続ける(年配の男性にとっては、健康にもよく、小遣い稼ぎにもなるから、いい仕事なんだそうだ。だが、これは後で聞いた話)。観光用とはいえ、レベルは高く、日本とはまったく異質な男声合唱の魅力を堪能することができた。

<旅行日/2013.05.26>

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