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ポリアンナが好きやねんの話

 MOTHERというゲームシリーズは、多くのゲームファンにとってとても特別な意味のあるゲームである。任天堂と浅からぬ縁のあるコピーライター糸井重里がディレクター兼シナリオライターを務めた、任天堂初のコマンド選択式RPGであることや、ほんわかしながらもどことなく奇妙で不気味なグラフィックであったり、喋りまくるモブ達の独特な台詞回しであったり、感動的でありながら決して良心的とは言い難いストーリーであったり。

 中でも音楽だ。このシリーズはとにかく音楽がはちゃめちゃに良いのである。
 楽曲担当はムーンライダーズの鈴木慶一とポケモンシリーズで有名な田中宏一。
 自分はムーンライダーズに決して詳しくはないのだが、あの独特な空気感は確かにMOTHERシリーズに通ずるところがあると思う。
 ポケモンシリーズの楽曲も大好きなので、もうどう転んでも好きしかない。MOTHERというゲームは好きと好きと好きをぎゅうぎゅうに詰め込んだ俺得ハッピーセットであり、私にとって一生に一度の特別な宝物のゲームなのである。


 そんな特別なゲームの中で一等特別な一曲がポリアンナである。原曲のタイトルはPollyanna(I Believe In You)元ネタはエレナ・ポーターの児童文学作品、及びそこから派生したアニメや映画の主人公ポリアンナ、そこから転じて呆れ返るほどの楽天家という意味の慣用句になったそうな。

 作曲は鈴木慶一。ファミコンのピコピコした3音+リズムだけで構成された、明るく伸びやかでどこか寂しく懐かしいような不思議な魅力のある曲だ。
 ゲーム最序盤、主人公が家を一歩出た瞬間から流れ始める、冒険の始まりを象徴する一曲でもあり、MOTHERシリーズ3部作に共通して使われるテーマソングとも言えるこの曲は、作品内外で何度も何度も繰り返しアレンジされ数多のゲームやCDに収録されたりされなかったりしている。
 私の一推しはスマブラDX収録の[マザー裏]というアレンジ。明るく爽やかでありながら壮大でドラマチックなアレンジを施したのは、星のカービィシリーズの安藤宏和。調べて驚いた、そりゃ好きなはずだよ大ファンですよ。

 さて、この曲には実は歌詞が存在する。名盤と名高いMOTHER公式サウンドトラックの一曲目に収録されている曲だ。
https://www.amazon.co.jp/POLLYANNA-I-BELIEVE-IN-YOU/dp/B00FT2M03E
柔らかく朗らかな声質で伸び伸びと歌い上げる歌い手はCatherine Warwick 当時14歳だったそうな。ニコ動 YouTubeなどに和訳やカバーもたくさんあるので、是非とも一度聴いてみて欲しい。

 この曲がいかに好きかを語る上で歌詞の内容に触れずに終わらせることはできない。この曲がどんな曲なのか、その全てが詰まった歌詞がこちら

Pollyanna(I Believe In You)

I believe the morning sun
Alway gonna shine again and
I believe a pot of gold
Waits at every rainbow's end
I believe in roses kissed with dew
Why shouldn't I believe the same in you?

I believe in make believe
Fairy tales and lucky charms and
I believe in promises
Spoken as you cross your heart
I believe in skies forever blue
Why shouldn't I believe the same in you?

You may say I'm a fool
Feelin' the way that I do
You can call me Pollyanna
Say I'm crazy as a loon
I believe in silver linings
And that's why I believe in you

I believe there'll come a day
Maybe it will be tomorrow
When the bluebird flies away
All we have to do is follow
I believe a dream can still come true
Why shouldn't I believe the same in you?

You may say I'm a fool
Feelin' the way that I do
I believe in friends and laughter
And the wonders love can do
I believe in songs and magic
And that's why I believe in you

You may say I'm a fool
Feelin' this way about you
There's not much I can do
I'm gonna be this way my life through
'Cause I still believe in miracles
I swear I've seen a few
And the time will surely come
When you can see my point of view
I believe in second chances
And that's why I believe in you

 残念ながら英語力皆無なので、翻訳アプリや複数の和訳を照らし合わせながら解釈している。意訳の正しさを保証できないことを許してほしい

参照した主な和訳
http://blog.livedoor.jp/dop_qob/archives/8209140.html http://tamagokake.hateblo.jp/entry/2015/03/25/092757 https://gamp.ameblo.jp/shizimix/entry-10177383696.html

 この曲はMOTHERの主人公パーティの一人、アナという女の子から主人公に向けたメッセージソングだ。
 あなたを信じていると宣言し、その根拠を述べるだけの非常にシンプルな歌だ。
 男の子に女の子が歌っているのだからラブソングだと思う人もいるだろう。そうでないなら、ポリアンナというタイトル通りの底抜けに明るい、何も知らず月の兎やサンタクロースを信じる子供のような無垢な信頼の歌だと思うかもしれない。
 だけど違うのだ。これは単純なラブソングというわけではないし、無垢な心を美しく演出した綺麗事では断じてない。月の兎もサンタクロースも大人のついた嘘だと知りながら騙されたフリをしてあげるような、優しくて賢い一人の女の子の人生を賭けた決意と覚悟の歌なのである。


 ポリアンナという言葉の示すとおり、表面上は楽観的で夢見がちな言葉ばかりが並んでいるように見える。アナは根拠のない明日への希望やおまじないや空想や妖精や御伽話を信じていると語り、「どうしてそれと同じようにあなたを信じてはいけないの?私は友情や愛や歌や魔法を信じてる。それがあなたを信じる理由」と軽やかに宣言してみせる。
 これは決してアナが本当の困難や絶望を知らない無知な子供だからできる無垢な妄信や、現実逃避の類いではない。「私を馬鹿だと思うのならポリアンナと呼んでも良い、クレイジーだと笑われても構わない」と言っているように、彼女はちゃんとそれが愚かにも自ら騙されに行くような、馬鹿にされても仕方のない行為だと理解している。

 この曲はゲーム中ではアナとは出会ってもいない最序盤から聴ける曲で、そもそも歌詞は後付けだ。この曲がいったいどの時間軸の心理から歌われているのか、断定はできないが、個人的にはこのあたりの心情を歌った曲だと思っている。
 ゲーム終盤、ラストスパートを掛けるように敵が突然馬鹿みたいに強くなるタイミングがある。これには制作時間を短縮するためデバッグを省略した大人の事情的背景があるのだが、偶然か必然か、ストーリーの壮絶さに大きな説得力を生んでいる。
 最終決戦に挑む直前の主人公たちが、ほんのひと時休息を取る小さな山小屋で、それまで殆ど描写されなかった12歳の小さな女の子の複雑な心情が明かされる。台詞にすればほんの数行の短い言葉だが、状況と音楽が言葉以上に雄弁に語る。
 どう足掻いても犠牲を避けられない絶望的な状況の中、それでも勝って守らなければならないものがある。この時の心情から生まれた曲だから、ポリアンナはあんなにも強く、眩しい曲なのだと思うのだ。

 ゲームのプレイヤーから見れば御伽話と変わりない、なんでもないフィクションでも、その登場人物からすれば紛れもない現実なのだ。現実は御伽話のように簡単ではない。
 きっとアナは世界を脅かすほどの圧倒的な敵を前に、だった数人の子供がどれほど無力な存在なのかを理解している。主人公達が成し遂げようとしていることがどれほど無謀なことなのか、それを痛いほど正しく理解できてしまっている。
 それでも信じることを決めたのだ。自分もその先の未来を切り開く力になることを決意した。だからポリアンナなのだ。

「明日が必ずやってくると信じてる、青い鳥が飛び去るのなら追いかければいい、夢はまだ叶えられる。どうしてあなたには同じことが信じられないの?」「私を馬鹿だと思ってるでしょう?殆ど何もできないくせにって。だけどこれが私の生き方。今でも奇跡を信じてる、ほんの少しだけど確かに見たのよ。必ずその時が来る。私の視点で見ることが出来れば、もう一度信じられるわ。だからあなたを信じているの」

 アナはアブナイ超能力の使い手なので、実は未来視とかで奇跡の起こる瞬間か何かを観たのかも知れない。だからどんな絶望的な状況でも希望を持っていられるのかも。
 けれど必ずいいことがあると知っていれば、死にそうな目に遭っても平気なわけじゃない。必ず生きて帰れる保証なんてないのに変わりないのだ(しかもアナは紙装甲)たった12歳の女の子が両親と離れて同い年の男の子と世界の命運を懸けた冒険に出たのだ、不安じゃないわけがないじゃないか。けれど泣いたり怯えたりして萎縮していたらきっと一瞬で何もかも奪われてしまう。だから強がりでもなんでもいいから、希望をさがしては笑ってみせるのだ。

 実は究極、主人公が実際約束を果たせるかどうかさえ、アナにとってはどうでもいいことなのではないかと思う。本当に奇跡が起きて何もかもが上手くいくかどうかなんて、本当はどうでも良くて、ただアナは本気でそれを信じたという、本当に大切なのはそこなんじゃないかと思うのだ。

 というのもこの曲の中で、アナは一度たりとも主人公からの返答を求めていない。どころか、あなたは馬鹿にするだろうけどそれでもいいとまで言っている。
 つまりアナが信じるのはアナ自身なのだ。

 自分が信じる相手を信じる。相手が信じた希望を信じると決めた自分自身への信頼。つまり[Pollyanna(I Believe In You)]とは自分が望む未来のために全身全霊を尽くすという決意と覚悟の歌なのである。

https://www.amazon.co.jp/POLLYANNA-I-BELIEVE-IN-YOU/dp/B00FT2M03E

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