J1第4節 アビスパ福岡vs FC東京 マッチレビュー

⓪ まえがき

こんにちは。2若です。前節のレビューは書く時間を割けなかったため諦めました。シーズン4戦目となりますが、既に2試合のレビューをサボっています。申し訳ありません。
毎度にはなりますが、選手の可変などの表記においてポジション番号を使用します。詳しくは下図をご覧ください。

出典は下のリンク

①スタメン

両チームのスタメンは以下の通り。

ベンチ
福岡:村上、宮、亀川、松岡、岩崎、鶴野、ザヘディ
東京:野澤大、土肥、中村、東、安斎、俵積田、ジャジャ

福岡は新加入の岩崎を左シャドーに置き、非保持時に岩崎とLWBをそれぞれ一列上げた4−4−2の形でプレスをかけてくると聞いていたが、この試合の左シャドーは金森。昨季を踏襲した路線で望むと見られる。また同じく新加入の松岡とザヘディもベンチ入り。

東京はここにきてようやく新加入の高がダブルボランチの一角として先発。CBには前節退場のエンリケに代わって木本が出場し、開幕スタメン後体調不良で欠場が続いた土肥が控えCBとしてベンチ入り。 またCFには荒木、10番(トップ下)には松木を起用し、ここ数年間絶対的なCFだったディエゴはいきなりベンチ外。大幅なスタメン変更で今季初勝利を掴みたい。

②前半

2−1 改善されたビルドアップ

前半立ち上がり、福岡は5−2−3からボールサイドのCBにシャドーを、SBにWBジャンプさせる形でハイプレスを行った。これに対して東京はダブルボランチの細かな列調整で成立させる2−2型か、ダブルボランチのどちらか(小泉が降りる割合の方が多かったように感じる)を最終ラインに落とす3−1型のビルドアップで福岡のプレス隊の足を止め、荒木や松木が斜めに降りて出口になることで前進していた。ここでは04:23の前進を図で振り返っていきたい。

まずカシーフが前嶋の圧を食らい切る前に斜めに降りて出口を作った荒木を使ったレイオフで高にボールを届ける。高は状況を見て前方向に急ぐのではなく引きつけてから小泉へのバックパスを選択。

その後、小泉が運んで松木に楔を入れ、松木が重見を背負った状態から反転し右大外の仲川へ。この時、長友がオンタイムで2−8移動したことで相手のラインが下がり、仲川は小田の圧を食らいすぎることなくボールを受けることができた。また仲川も無理矢理仕掛けることなく木本へのバックパスを選択し、全体的の陣形を自陣から敵陣まで押し上げることに成功した。
このように、1stラインをクリーンに越えるだけでなく、越えた後もスピードを上げすぎてすぐにロストすることが少なかったため、前の3試合に比べ自分たちでボールを握る時間を増やすことができた
また、ボランチの列調整だけでなく、この試合の東京は両SBが常時低い位置でベタ張りするのではなく内側のポジションに立つことでWBの移動距離を増やし、結果としてハイプレスを諦めさせることに成功した

2−2 非保持 原点回帰の4−4−2ミドルセット

開幕3連戦、東京はWGを1stラインに加えた4−2−4のような形でハイプレス行っていたものの、移動距離が長い分、前は圧力かけきれない/後ろはスライドが間に合わないという負のループに陥っていた。しかしこの試合ではその方針を転換したことで大幅な改善が見られた。
非保持4−4−2の前線を務めた荒木と松木が背中でボランチを消すことを最優先に3バックにはある程度ボールを持たせ、2列目以降の選手も徹底して中央を消し、外循環を強要した上で大外の選手にはダブルチームを徹底したのだ。福岡は主にウェリントンを使ったロングセカンド前進を試みてきたが、ブロックを組んだ状態の東京にはあまり効果的ではなかった。(どうやらこの方針転換を提言したのは高だった模様。高に感謝する気持ちと、指導陣はこの問題に気づいていなかったんかい、というツッコミが半々。)
一方、ブロックを組みきれないネガトラ局面において福岡は元東京・紺野を中心に東京のゴールを脅かし続けた。前節凄まじいフィルター性能を見せつけた松木や小泉に比べ、高はネガトラ時に紺野の対応に少し苦しんだ印象だったが、これは高が悪いというよりも紺野が良すぎたので気にしないことにしておく。何にせよ、ここで失点せず踏みとどまれたことは大きかった。特に、先制直後のキックオフデザインからロングボールをウェリントンが収めた後紺野に打たれたシュートを波多野が防いだ28:40のシーンはこの試合のターニングポイントだったように感じている。

2−3 先制点 中央経由のメリット

時系列は少し前後するが、次は先制点に繋がったフィニッシュ設計について振り返っていく。
この試合のフィニッシュ設計において開幕3試合と明確に違ったのは、一度中央(ライン間)にボールを入れて相手の目線を集める作業を挟むことで、大外の選手が余裕をもらって質的優位を活かしやすくなったことだ。ここでは先制点のシーンを含む2つの場面を取り上げて振り返っていきたい。

まずは16:38のシーン。荒木を使ったレイオフで田代を吊り出し、仲川-高vs小田の2vs1を作るが、重見の素早いプレスバックで数的優位は無くなる。しかし、高からパスを受けた仲川が1stタッチで小田を抜いてスピードに乗り、カバーした田代もちぎってファークロスまで持ち込み決定機を迎えた。いつものようにU字循環に前進を図っていたら、仲川は小田にタイトにマークされ、例え小田を剥がせたとしても田代にカバーされていただろう(あるいは長いボールを蹴らされた上セカンドボールを回収され、仲川がボールに関与する機会が格段に減っていたかもしれない)。1vs2を打開するのは難しいが、スペースがある状態で1vs1を2回やる分には優秀なWGを抱える東京にとっては悪いことではない。開幕3戦はライン間レシーバーとしてDFラインの手前でギャップを作ることに奔走していた仲川が、大外で相手と正対したり背後へのランニング(バックドア)を仕掛けたりと様々な駆け引きを行えるようになったのは、この荒木の偽9番システムの恩恵と言えるだろう。

続いては27:10の得点シーン。先程のシーンと違い押し込み切った後の局面だが、スローインから遠藤と荒木のパス交換&ポストプレーでボックス内に目線を集め、ゴールを守る上で中央に比べ優先度の低い外側、左ペナ角付近で待機していたバングーナガンデに時空間の余裕を与えることができた。そしてそのバングーナガンデから5人目として最後にボックスに入ってきた長友へのクロスが通り、生ける伝説が5054日ぶりとなるJ1でのゴールを沈めて東京が先制に成功した。

2−4 追加点 局面を変えるロングボール

東京の2、3点目は、1点目とはテイストの違うものとなった。押し込み切った状態からではなく、局面をひっくり返すロングボールを起点に得点を奪ったのである。(ただし、3点目に関しては後半に生まれたもので、福岡のフォーメーション変更などもあったため後述する。)

31:04の2点目のシーンは、まず木本がコンドゥクシオン(運ぶドリブル)で1stライン(ここではウェリントン)を超えたところから始まった。木本が再びウェリントンを引きつけ並行の松木へリリースすると、遠藤がバックドアの予備動作を見せる。それを察知した松木が奈良と井上のちょうど真ん中に綺麗なロングパスを通すと、拾った遠藤が井上を背負って時間を作り、抜群の嗅覚でPA内に飛び込んできた荒木がほとんど角度のない状態からファーにシュートを沈め追加点を得ることに成功した。
広島戦でのデビュー以降、東京は遠藤の献身性やリンク力は中々活かすことが出来ず、単体での突破力に長ける俵積田やジャジャに比べて地味なパフォーマンスに留まっていた。そんな遠藤にアシストという分かりやすい結果がついたことは、本人にとってもチームにとってもポジティブな出来事だったのではないか。

③ 後半

3−1 福岡の修正

前半2−0でリードされた福岡は後半、RHV井上に代わってFW岩崎を投入し、システムを4−4−2に変更した。

この修正で、福岡は保持時のロングボールの蹴り先に中央で構えるウェリントンだけでなく外抜けする岩崎という選択肢が出来たため、東京は自陣PA内まで押し込まれる機会が増えた。ファイナルサードでは外からのクロスに依存していたが、54:47のシーンのようにウェリントンを中心に東京のゴールに迫った。

また、この修正により非保持でも噛み合わせが修正されて人を捕まえる意識が強まったため、列降りする荒木や松木に対するCBの出足も速くなったが、これに対して松木と荒木は逆に列を降りすぎないことで対応。前半同様高と小泉の列調整でプレス隊の足を止め、圧をかけられたら潔く松木にロングボールを蹴ることで低い位置での不用意なロストは避けることができた。そして、その松木へのロングボールが3点目へと繋がる。

3−2 3点目 精度を上げる右ユニット

東京の3点目はゴールキックから始まった。低い位置でのロストを嫌った東京は松木を目掛けてシンプルなロングキックでリスタート。このセカンドボールを高が回収し、右サイドの仲川へ渡す。

ここで仲川が田代を引きつけて正対し、それを長友が全速力でオーバーラップしてボールを引き取りクロスを入れる鉄板パターンが発動。このクロスを永石が弾ききれずボールがファーに流れると、ドンピシャのタイミングで入ってきたバングーナガンデが左足でジャストミート。
福岡としては、ロングボールから一気にゴールに迫られブロックを組みきれなかった所からの失点となった。
また、このシーンでは遠藤と荒木がニアに、松木がファーに走り込み、長友のクロスはファーを狙った弾道のように見えた。考えすぎかもしれないが、エアバトルに強い奈良と田代に囮となる遠藤と荒木を当て、前線で1番サイズのある松木をファーに配置してクロスターゲットとする狙いがあったなら、中々にディティールの詰まったフィニッシュ設計だったのではないか。

3−3 応用としてのハイプレス

先述したように、福岡は後半から4−4−2のシステムに変更し人を捕まえる意識が強くなったが、これは東京にも同じことが言える。ビルド隊に対する数的不利がなくなったため、4−4−2のミドルブロックを組んだ状態からCB→SBの横パスをスイッチに、敵陣でのボール回収が見込める程強度の高いプレスをかけられるようになったのだ。
また時間軸を遡ることになるが、49:08のシーンを振り返りたい。

このシーンでは、まず荒木が重見を背中で消しながら奈良にジャンプし、低い位置で張っていた前嶋への横パスを誘発すると、守備の上手い遠藤がすかさず前嶋を捕まえ、チーム全体の陣形も左サイドへスライドして前嶋に圧をかける。ここでGKへのバックパスを選択させれば2度追いしてGKにクリアさせれば良いのでこの時点でプレスには成功しているが、抜群の守備力を持つ遠藤はこのまま前嶋からボールを奪い、ショートカウンターに繋げた。
今までのハイプレス(のようなもの)との違いは、一度4−4−2のブロックを作った状態からプレスをかけているため後ろが出遅れることなく、またホルダーに対しても圧をかけられていると言う点である。このシーンでは守備の上手い遠藤がスイッチだったが、62:21のシーンなど、第3節まで非保持貢献度が低かった仲川のサイドからもこの圧はかけられていた
ミドルブロックという基礎と、それを応用させた無理のない真っ当なハイプレスを習得したことはこれからのシーズンを戦う上で大きな収穫だと感じている。

3−4 試合の締め方とベンチメンバー選考

3点をリードした東京は71分に遠藤に変えて俵積田、79分に仲川に変えてジャジャを投入したが、非保持貢献度の高い安斎がベンチにいながらも、ビハインド時と同じ交代カードの切り方をした意図はあまり見えてこなかった。そして、結果的に紺野に対してダブルチームで制限をかけられなかったことが81:28の失点に繋がった。

俵積田は紺野のカットインコースを塞ぎ
バックパスが出てから前嶋に制限をかけるべきだった
この後ボックス内で岩崎→ザヘディ→松岡と繋がって失点

これは3点リードでも尚点を取りに行くワンモアゴールという指針に基づいたものなのかも知れないし、勝敗に関わるような場面での変な采配という訳ではなかったが、開幕3戦で俵積田とジャジャがジョーカーとして機能することは分かっていたため、様々なポジションをこなせる安斎やかつての永井謙佑のような非保持貢献が見込める小柏を絶対に勝ち点を落とせない試合に備え試運転しておいた方が良いのではないかと感じた。
俵積田とジャジャの非保持貢献度では同点orビハインド時に得点を狙っての起用しか出来ない上、この試合で中盤から前線まで広いポジションをカバーできる東が6週間離脱することが決まってしまったため、徐々にベンチメンバー7枠中の2枠を彼らに割く余裕は無くなってきている(私はそもそもベンチメンバーに7人しか登録できない現行制度に納得していないが)。ベンチメンバー選考、交代カードの切り方に関しては今後も注視していかなければならない。

④ 今後について

アビスパ福岡は中盤をサリーさせるFC東京に対してプレスを回避されて擬似カウンターの局面を作られることを嫌い、ミドルブロックを敷いた。しかし、時間が経てば東京のビルドアップは徐々に研究され、心臓である高をマンマークで消した上でハイプレスをかけてくるチームも現れるだろう。
そうなると、特にCB・GKのプレス耐性に難がある東京はこの試合のようなクリーンなビルドアップを行うことが難しくなるかもしれない。その場合はどのような前進手段を取るべきだろうか。
個人的には、ロングボールを使うことが1番効果的であると考えている。
2節広島戦や3節神戸戦の東京がそうだったように、前からプレスをかければ後方の守備は薄くなる

もう2度と自殺プレスしないでね。
失点とエンリケの退場が増えるだけ。

2点目のシーンで遠藤が見せたようなWGのバックドアも1つの手段ではあるが、ポジトラ時に4−4ブロックに組み込まれたWGが相手の背後へ抜け出す動きを連発するのは移動距離の問題から消耗が激しいため難しく、CFの活用も必要だと考えている。広島のように背後のスペースを活用して一気にゴールに迫るようなロングカウンターを狙うのであれば小柏を、神戸のようにロングセカンドによって全体の陣形を押し上げようとするならディエゴをそれぞれCFで起用すれば、荒木の偽9番とはまた違った前進方法が編み出すことができ、より対策しづらいチームとなるだろう。
ここから先は理想論だが、個人的にCFには1枚目のクロスターゲットとして相手CBに競り勝ってゴールを決められる可能性が高い選手を起用したいと考えているため、ディエゴが小柏のような外抜けや荒木のような列降りを習得してくれれば1番天井の高いチームが出来上がるのではないかと妄想している。

⑤あとがき

いかがでしたでしょうか。苦手としてきた福岡の地でスコア・内容共に相手を上回った会心の勝利を掴んだことはとても気持ちの良いものでした。しかし、まだシーズンは始まったばかり。来月はカップ戦を含めた過密日程にアウェイの東京ダービーが待ち構えており、更にはU−23組が五輪の予選に帯同してしまうなど、序盤戦の山場を迎えます。まずは勢いに乗るためにも今週末の多摩川クラシコでしっかりと勝ち点3を掴むことが大切でしょう。
新年度が始まりますが、今後もなるべくマッチレビューの更新を続けていきたい所存ですので、次回もどうぞよしなに。ご覧いただきありがとうございました。

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