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お母さんのおにぎり

今日久しぶりにお母さんの握ってくれたおにぎりを食べた。焼きたらこに昆布。多分冷蔵庫に入ってた余り物をいれてくれたのかもしれない。
こどもの頃はよく食べていたけど、大人になってから食べるおにぎりは温かくててちょっと切ない気持ちになる。

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兄弟がいないなか育ってきたわたしにとって、お母さんは友達のような存在だった。
出張が多い父親にかわって、色んなところに連れていってくれたお母さん。大学のときには実習が辛いと泣きながら電話すると、休日に私が住んでるアパートにきて、「ご飯ちゃんとたべてる?」とお惣菜がいっぱい入ったタッパーを持ってきてくれた。
思春期になるとお母さんのこと嫌いになったらどうしようと泣いてしまうこともあるくらいお母さんのことが大好きだった。

お母さんの愛情をいっぱい受け、わたしはいわゆるマザコンに育っていた。でも社会人になって色々経験するうちに、お母さんのいっていることに全部頷けなくなってしまった。
大人になってからのはじめての反抗期。
一緒にいるのがどこかぎこちなくて、何を話したらいいかわからなかった。気づいたら実家にはあまり寄らなくなっていた。

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社会人になってしばらくたった最近、突然会社にいけなくなってしまった。
自分を繕い、「いい子」の鎧を被って会社という戦場にむかっていたが、その鎧が壊れて戦えなくなってしまった。
今まで築いてきたものが全部なくなってしまったような気持ちになった。
でも実家に帰りたくなくて「大丈夫だよ」と誤魔化していたが、不安と挫折で心がはりさせそうだった。

見栄をはり、孤独に押しつぶされそうなときにふとお母さんの声を聞きたくなってしまった。
いざ電話をかけてみたはいいけど、なにを言っていいかわからず涙がぼろぼろでてくるだけだった。

そんなとき、お母さんは「家に帰っておいで」とだけいってくれた。
わたしは必要なものだけもって実家に逃げるように帰った。


実家は物が多く少し狭い(いや、だいぶ狭い)アパートで、自分の部屋すらない。寝るときは家族全員で川の字になって寝ている。一人の空間なんてトイレとお風呂くらいだ。そんな狭い家が昔は嫌でしょうがなかったが今は不思議と落ち着く。


家ではお母さんが元気に動き回っている。
おっちょこちょいのお母さんは本日の失敗エピソードを惜しげもなく明るく披露する。(エピソードを聞くたびに周りの人が優しい人が多くて良かったなと安堵)
あるときは突然サンバをしようと誘ってきたこともある(これはえ、なんで?と思ったけど)
夜はリビングでテレビを見ながら寝てしまうので叩き起こして布団まで連れてこないといけない。(しかも、寝ているお母さんのイビキが騒音なみにひどい。先に寝られると安眠妨害になる)

昔と変わらずツッコミどころのお母さんだけど、最近話しかけると少し嬉しそうにはしゃぐ。
もしかしたら反抗期の娘の様子に少し寂しかったのかもしれない。
わたしも少しだけ、今までぽっかり穴が空いていたところが埋まったような気がする。

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しばらくは人生の夏休みを過ごすかもしれない。
先の予定は全然たってないし、今すぐどうしようとも思っていない。
でも、お母さんとすごす毎日はどこかくすぐったくて温かい。このなんともいえない気持ちを感じることができたから、この休みもいいもんだなとおもっている。

おにぎりを作ってくれたお礼に帰り道のコンビニで好きなスイーツでも買ってこよう。

ありがとう、お母さん。

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