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思い出の一瓶 #架空ヶ崎高校卒業文集

3年U組 瓜捌木 よし子

 私が高校生活で一番打ち込んだものは内職です。
 こう不景気だと、両親から貰える小遣いが限られますし、バイトできる時間にも限度がありますし、普通の仕事だと、なかなか派手に儲けられません。
 そこで、私はウラヌスに目をつけました。
 塗装用の有機溶媒として使うやつなんですけど、吸うと脳が溶けるとかで、市販のやつは純度が薄いんです。なのでわたしは、ド工──溝ヶ丘工業高校の連中と話をつけて、うまいこと純度の高い原液のやつ、純ウラを一斗缶で仕入れることができたんです。あいつら工業系の高校ですから、そういうの仕入れるルートがあるんですよね。
 で、友達を7人ぐらい集めて、純ウラを捌くんですけど、栄養ドリンクの瓶があるじゃないですか、あれ一瓶でちょうど一回分なんです。
 で、瓶に純ウラを移して売ると、原価が500円ぐらいのところ、1500円から2000円で売れるので、これはもうかなりの儲けになるわけです。
 わたしも売り子はやりましたけど、仲間には一瓶200円ぐらいかな、徴収して、ド工には売上の1割ぐらいを収めてましたね。一斗缶とはまた別代金で。ド工も架空ヶ崎に販売ルート作りたいわけで、winーwinというわけです。
 ただ、こう、売ってるうちに気になってくるんですよね。
 ウラヌスガス、そんなにいいものなのかな? って。
 ほら脳みそ溶けるし頭おかしくなるから駄目って言うけれど、ド工の連中とかもう目つきで「ああコイツらいつもキメてるな」ってわかっちゃうし、警官だって「ああこの人はやってる」ってのは、売りやってると、ぼんやりわかってくるんですよね。使っちゃうと半分くらい現実抜けちゃいますからね。ここじゃないどこかを同時に生きてるなこの人みたいな。
 架高の真面目な子がキメてぶっ飛んで、この世に存在しない鳥のこの世に存在しない音程の叫びを上げながら走り回って転んで傷だらけになったりする様子を見ると、ええそこまで癖になるの、なんてなるんですが。
 だから使っちゃったんです。
 一回一瓶なのに、一回に二瓶。
 そしたら、すごくて。
 色がね、虹って7つの色相に分かれてるじゃないですか、あれ、65536色ぐらいに分かれてました。

 こうね、混ざってるとかじゃなくてもっとくっきり分かれてるわけです。認識すると壊れるから認識しないようにしてるだけなんです。
 それにね、目が2つとか、とんでもない。もっとある。鼻もこう体中にできて、匂いがね、本当に凄い、世界中変な匂いといい匂いと悪い匂いでいっぱいで、脳が真っ白になって。
 もうね、そうなるとつまんないわけです。この世の95%から目をそらしてわたしたちは生きているわけで、わたしたちが認知してる現実なんてたった5%ですよ?
 5%の中に縛られた現実、つまんなくて、95%で親友の山田くんとお互いの肉を食い合い血をすすり合い、いえこんな5%に縛られた表現なんてものじゃなくてもっといやらしいんですが、95%の方のアレなんで、人間の言葉にならないんですよね。人間の言葉は5%の側ですから。
 あー、それは売れるわ、売りさばきたくなるなって思いました。世界がひろがるというか、いままでがちっぽけで、4畳半を世界とおもいこんでいたんです、わたしたち。

 だから商機だとおもったんです。ここが売り時だと。

 だから、校長先生にも吸っていただいて、担任の先生にも吸っていただいて、ご理解いただいたんです。
 もう途中から文章おかしくなってますけど、これ、卒業式でわたしがよみあげるよていのやつで、ちゃんと読めるか心肺なんですけど、もう興奮しちゃって、こうふんしちゃって。
 文章のこのあたりをよみあげるあたりには、消防士さんが、協力してくれて、タンクいっぱいの純ウラを、消火ホースで講堂に窓からぶちまける手はずになっています。
 つまり、この行動はこれから純ウラが揮発したウラヌスガスのガス室になります。
 せっかく高校を卒業するんですし、もう5%の現実も卒業して、95%に行きましょう。
 わたし、ウラヌスガス、みんなが超え続けられるよう、頑張っていっぱいみんなに売りますから。
 溝ヶ丘印の純ウラ一本、2000円。
 わたしが3年間打ち込んだものを、何卒よろしくお願いします。
 今日、わたしたちたちは架空ヶ崎高校と、つまんない現実を、数トンの純ウラが沸かせたウラヌスガスで、卒業します。
 つきましては今日からウラ中になるだろう後輩の皆さん、他のクラスの先生方、ご父兄の皆様、これからよろしくお願いします。

(録画映像の中、講堂である体育館の窓ガラスが次々に割れ、大量の液体が高圧放水式で飛び込んでくる)
(大量の機械では7色までしか捉えられない極彩色の得体のしれないガスがまたたく間に水たまりから立ち上り)
(誰もが高音域の限界と低音域の限界を超えた得体のしれない声で叫び会話し始め左右の目が別々に運動し始め)
(やがて肉体そのものが徐々に変■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲■検閲

通達:本案件はD案件として処理される。D丘関連の情報を引き続き収集のこと。
202x年在校生及びその家族に関してはシナリオ『ガス爆発』を適用。
『溝ヶ丘工業高校』なる高等学校は存在しない。特にこの案件に関しては重点調査されたし。
ウラヌスガス使用者に関しては、今後も即座に専用施設に連行、処理すること。

公安部長 ■■■■
 

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