特殊詐欺には気をつけろ!〜善意と悪意〜
仕事中に時間をチェックしようかと思いスマホをひらくと、そこには隣町の警察署からの着信と留守電が入っていた。しかも10分ほど前のこと。
「なんだ……?」
隣町といえば実家がある街だが、不安な思いを抱えたまま留守電を再生してみた。
「……警察生活安全課の……ですが、……さんのお父さん、……さんのことでお電話を致しました。お手数ですが、このメッセージをお聞きになられましたら折り返しお電話を下さい」
予期せず警察官の口から父親の名前が出てきて激しく動揺した。すぐさま電話をかけると電話をくれた方は席を外していて、別の方が対応してくれた。だが、その方はどういった過程でこの状況になっているのかを把握していなかった。とりあえず不安を口にしてみた。
「……父に何かあったのでしょうか? 事故とか何か?」
相手の方は「申し訳ないがどういった案件かを知らないので答えられないが、生活安全課なので命にかかかわることではないと思います」とのことだった。そう言われて幾分安心したが、今度は別の不安が頭をよぎった。
「行方不明とか、万引きとかかな……」
とりあえず担当の者が戻ったら電話をくれることになり、その電話を待った。もう仕事は手に付かず、あれやこれやと考えてみる。母親は来週、病院で検査なので僕が実家に寄って車で送って行くことになっている。なぜ急に父親の名前が警察から?
すぐに電話がかかってきた。要約するとこうだ。父親は保険が満期になり、そのお金を子供たちに配ろうと、銀行でそのお金を下ろしに行った。だが、一度に下ろす額が大きくて銀行の方が警察に連絡したとのこと。なにやら詐欺を防止する為に条例で決まっているらしい。銀行と警察が連携を取り、詐欺を防止するなんてとても良いことだ。ただ銀行の方も警察の方も大変だろう。自分の金を下ろせなかった父は銀行で怒ったのではないだろうか? もともと頑固な人だ。他人の意見はまず聞かない。顔を赤くしてブツブツと言いながら怒っている父親の姿が目に浮かんだ。警察の方にそれとなく聞いてみた。
「ごめんなさい、父親は頑固で。銀行で父親はお金を下ろせなくて、怒って迷惑をかけたのではありませんか?」
警察の方は軽く笑っていた。
これは父親に限ったことではないが、高齢の方にも勿論プライドはある。彼らが今の世界を創ってきたのだ。その彼らが稼いだ金を好きに下ろせないなんて、なんと酷い話なのだろうか。決して銀行の方が意地悪をして金を下ろさせないわけではない。それはその彼らの金を騙し取ろうとする奴らが居るからだ。特殊詐欺は一年間で何百億もの金を善人から盗み取っている。
善意からそのお金を守ろうと努力をしているのに、悪態をつかれる銀行の方や警察の方、自分のお金を下ろせないで憤慨する方。とてと良くない状況だ。
「明日仕事が休みなので、実家に顔を出して、ちょっと話してきます。お忙しいところ、気を使って頂きましてありがとうございました」
そう言って電話を切った。明日は免許の更新に最寄りの警察に行こうと思っていたのだが隣町の警察から電話がかかってきて……。普段、警察の方とは全く接点がないのだけれど、……なんだかよく分からない。
とりあえず無事だった。警察の方に事情を聴いたときに、不覚にも安心して泣いてしまった。
車で帰宅中に父親からスマホに留守電が入っていた。家の近くのスーパー寄り、駐車場で留守電を聞いた。
「……です。明日時間があれば寄って下さい。今日、保険が満期になったお金を下ろそうとしたのですが、………お願いします」
照れ屋でわがまま、息子の僕から見ても子供っぽい父親は、基本的に自分で何とかするタイプ。だからあまり他人に物を頼むことはしないで生きてきたのだと勝手に思っている。それでも一年に一度くらい物を頼まれるのだか、そのときは決まって敬語で恥ずかしそうに話す。
すぐに実家に電話をかけたが留守電だった。詐欺師からの電話が何度かかかってきたことがあるので、父も母も家の電話には出ることはない。留守電に明日行くことを告げると、車を降りてスーパーへ入った。入り口に父親が良く食べていたカップ麺のワカメのやつが安売りをしていた。それを二つ取ってカゴに入れ、ポテトチップスののり塩もカゴに入れる、母親はこの苦いチョコレートが好きだったな。土産を買うと実家に顔を出すのが余計に楽しみになった。
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