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小説:労働Gメンは突然に

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【労働基準監督官のお仕事小説】 厚生労働省の職員にして、専門職の国家公務員、そして労働法の番人である労働基準監督官――別名、労働Gメン。 23歳の時野は晴れて労働基準監督官となっ… もっと読む
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労働Gメンは突然に:第1話「賃金不払」

あらすじ 本編:第1話「賃金不払」1  市役所や警察署、税務署といったメジャーな役所が市内の中心地にあるのに比べて、角宇乃労働基準監督署は「町外れ」と言っていいような場所にあった。  JR角宇乃駅から徒歩25分――。もはや最寄り駅とは言いがたいほど駅から離れた場所に、角宇乃労働基準監督署の庁舎はある。  時野は角宇乃駅前に降り立つと、スマートフォンで目的地である角宇乃労働基準監督署の位置を確認した。  角宇乃労働基準監督署までは何回か分岐があり、なんとも複雑な道順だ。

労働Gメンは突然に:第2話「所在不明」

第1話から読む 登場人物本編:第2話「所在不明」1 「時野くんの名前さー、龍牙って。なんか強そうでいいよねー」  時野が書類を綴る作業をしていると、安全衛生課長の高光が話しかけてきた。 「名前負けしてるって、よく言われます……」  時野が恥ずかしそうに言うと、高光は笑いながら話を続ける。 「俺もさー、『漣』っていうんだけど、顔面に対して名前がかっこよすぎるってよく言われるのよ。こんな二枚目つかまえて、ひっどいよな」  高光は話好きで、雑談をしている姿をよく見かけ

労働Gメンは突然に:第3話「有給休暇」

第1話から読む   前話を読む 登場人物本編:第3話「有給休暇」1 「今日はたくさん飲んで、食べて、楽しんでください! それでは、乾杯!」  かんぱーい、と口々に言う声に続いて、グラスが触れ合う音があちこちから聞こえた。  角宇乃市の繁華街である明多町は、角宇乃駅から角宇乃労働基準監督署とは反対方向に10分ほど歩いたところにある。  角宇乃市は県庁所在地ではないものの、県内の中核都市として人口が多く、それに比例するように繁華街である明多町も栄えている。  今日は、

労働Gメンは突然に:第4話「労働Gメンのロマンス」

第1話から読む   前話を読む 登場人物本編:第4話「労働Gメンのロマンス」1  夕方5時を過ぎた地下書庫は、静寂に包まれていた。  夏沢は滑り込むように書庫の中に入ると、なるべく音を立てないよう静かにドアを閉めた。  角宇乃労働基準監督署は地上2階、地下1階の3フロアから構成される単独庁舎だ。  来庁者が訪れる事務室は1階にあり、ほとんどの職員は1階にいる。2階は会議室・休憩室・更衣室で、地下は書庫と倉庫だ。  行政機関には膨大な書類が保管されており、書類の置き