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小説:労働Gメンは突然に

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【労働基準監督官のお仕事小説】 厚生労働省の職員にして、専門職の国家公務員、そして労働法の番人である労働基準監督官――別名、労働Gメン。 23歳の時野は晴れて労働基準監督官となっ…
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2024年6月の記事一覧

労働Gメンは突然に:第5話「道交法違反」

第1話から読む   前話を読む 登場人物本編:第5話「道交法違反」1  時野の中の加平は、いつもクールで動じない。  だが、白い百合のようなその女性を目の前にした時の加平は、時野が初めて見る加平だった。 『麗花……』  若月からの目撃情報を元に南区のラブホテルに行ったあの日、時野と加平は麗花に遭遇した。  ラブホテルの裏手は隣の敷地の駐車場に面しており、その広大な敷地は入院病棟のある大きな精神病院だったのだ。  病棟の周りには広い庭園があり、患者たちが散歩できる

労働Gメンは突然に:第6話「麗花と加平」

第1話から読む   前話を読む 登場人物本編:第6話「麗花と加平」1 『あっ! おとうさんだ!』  テレビの画面には、警察官に混じって現場に立つ父の姿が映っていた。  胸元に「厚生労働省」とワッペンがついた紺色の作業着を着用し、「労働基準監督署」と印字された黄色い腕章をつけている。  角宇乃駅前の大型商業施設の建設現場で労働災害が起こり、角宇乃労働基準監督署と角宇乃警察署が合同で災害調査をしている様子がニュースで放映されているのだ。  幼い麗花にとって、労働基準監

労働Gメンは突然に:第7話「人材紹介」

第1話から読む   前話を読む 登場人物本編:第7話「人材紹介」1  土曜日の午後――加平はカフェで麗花を待っていた。  麗花が店内に入ってきたのが見えると、加平の漆黒の眼球はその姿に釘付けだ。  麗花はカウンターで注文を終えると、加平のいるテーブルのそばに立った。 「麗花……」  加平は立ち上がって麗花と向き合った。 「加平くん……」  2人が見つめ合っていると――ふたりの世界に突然にょきっと何かが突き出された。 「すみませーん、僕もいますけど」  時野

労働Gメンは突然に:第8話【終】「労働Gメンの追憶」

第1話から読む   前話を読む 登場人物本編:最終話「労働Gメンの追憶」1 「いやマジでかわいすぎん? 湖上佳恋ちゃん! 東京シンデレラガールコンテストでグランプリとった時から、推してんのよねー」  高光は一方面の島に来ると、バッとポスターを開いて一方面の3人に見せた。 「ああ、安全週間のポスターですか。もうそんな時期なんですね」  紙地一主任は腕を組みながらポスターに顔を近づけた。  高光課長は紙地一主任よりも先輩らしく、高光と話す時の紙地は敬語だ。 「だよね