実況脳と解説脳

スポーツでよく見られる実況と解決の立て付けだが、これらは「見ているものは同じだが見えているものは違うよね」っていう典型例なので考察してみる。

プロ野球や高校野球などのスポーツ中継をラジオで聞くのが結構好き。中学生のころからずっとラジオで野球中継を聞きながら育ってきた。

映像で見ていると見え方に正解が決まっているので、自分の想像力が付け入る隙がない。だが音声って過去の情報との紐付けなので100人いれば100通りの見え方がある。みんな聞いているものは同じだが、頭の中のイメージは異なる。

音の使い方って空間設計でも重要で、サウナでも空いてる耳にどう音を届けるかって頭の中に広がる世界を変えることができるのでないかと考えている。

2016年以降、家にテレビがないこともあり、いまでもプロ野球中継をラジオで聞く機会が結構ある。スマホのアプリでラジオが聞ける便利な時代。仕事が終わったあとにリラックスできる時間になるエンターテイメントはやっぱり偉大だ。

プロ野球だけではないが、スポーツの試合では実況と解説がいる場合が多い。映像を見ていると見え方の正解が決まっていると前述したものの、これは正確ではない。同じ視点や知識レベルの人が見ているものは同じだが、これらが異なる場合は見えているものが異なる。

ある日中継を聞いていて、「実況と解説は同じものを見ているが、見えているものが違うのではないか」とふと感じた。これまではそんなことを気にしたことがなかったのに、noteを毎日投稿してネタ探ししなければならないからか、これまでスルーしていたことが引っかかる現象がある。

一般的には実況は表面的に状況を見て、見えている動作や展開を瞬時に言語化する。一方、解説は動作や展開の行間や意図、背景など見えていない心理面や意図を読み取り言語化する。

これはビジネスの文脈でも考え方を適用できそうだ。例えば、実況脳と解説脳と命名してみる。

実況は聞こえやすさのUI重視。短文でテキパキと状況の変化を声に変換する。解説は視聴者が持っていない視点や素人の人でも楽しめるメタ情報の付与と役割が全く異なる。例えば初めて見るスポーツの解説をしてくださいと言われたら、確実に実況になる。

それは表面的にしか物事が見れないので、実際に起こっている動作や状況変化を言語化するしかない。だが、これは解説ではなく実況だ。

実況は元選手ではない人がほとんどだろうが、解説は元選手がほとんどの場合、行っている。両方の能力をプロレベルで持っている人ってほとんどいない。

どちらが優れているとか、そういう話ではなく、見ているものは同じだが見えているものが違うという事実は示唆を含んでいるような気がする。

たまに解説は未来予測のようなこともやってのける。予想した内容が的中する。これは文脈からのパターン認知によるものだ。膨大な数の文脈に触れてきたので、データベースが脳にできている。点で見ているのではなく、文脈による線で見ている。

質の高い解説は、話にロジックがある。また基準などを提示してくれるので150キロのボールが速いのか遅いのか初めての人でも分かるようにしてくれる。そのプレーの意図や背景など目に見えない心理的な側面を言語化して届けてくれる。また解釈の視点も面白い。

一方で質の悪い解説は、精神論に偏重しており、話にロジックがない。これは解説というより、居酒屋のおじさんがテレビに向かって釈迦に説法している状況と同じので話がつまらない。

この違いはどこからくるのか。思考の枠組みの大きさの違いがあるのではないかと考える。人間は思考の枠組みの内側あることしか解釈できない。その解説自身が一流でないと一流のプレーの解釈ができない。

二流は打てる球が来たら打ってしまうが、一流は打てない球にも手を出す。前者は今ある能力で片付けようとしており、打てない球は打てないままだ。つまり、勝負どころの価値ある打席で打てない球が来たら凡退してしまう。

一方で一流は打てる球は打っておき、打率が3割超えているようであればあとは実験を繰り返す。打てない球に手を出すことでデータを溜めておく。勝負どころの価値の高い打席で確実に打てるようにしておく。

これが二流と一流の違いだ。質の高い解説は一流が実験で打てない球にも手を出すことが分かる。自分の経験にも照らし合わせて、仮説検証をしていることが分かるのだ。視点が多く、引き出しが多い。

だが、質の悪い解説はなぜそんな球に手を出すのか、などと居酒屋のおじさんと同じレベルでのことをやってのける。視点が少なく、引き出しは精神論のみ多い。

実況については、UIはほぼ変わらない。質の良し悪しが出るのは解説へのパスの出し方だ。オープンクエスチョン過ぎると、解説の回答もボヤける。本当に表面的なことだけ見ているのか、または構造的に見ているが状況変化を伝えるために表面的に切り替えているかは全く異なる。

クローズドクエスチョンは普段から考えていないとできないので、試合以外の時間でどれだけそのスポーツを向き合っているかが如実に出る。

実況はアナウンサーなので、トレーニングにより聞きやすさの差ってほとんどない。一般人よりも声が通り滑舌も良いので聞きやすい。あるとすれば声の高さくらいで、やはり声が低い人の方が聞いていて疲れない。声が高い人は長時間聞いてると疲れてくる。

ビジネスの世界では、解説の方が希少価値が高い。視点や文脈から未来予測する能力って一朝一夕では身につかない。だから実況よりも解説の方が報酬が高いと想定される。

もちろんUIも良いに越したことはないが、仕事の本質はそこではない。解説については解説しようとしなければ一生身につく能力ではない。実況脳になるのではなく、解説脳の方が市場価値が高くなる。

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