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腹魚(はらうお)


美味しい白身ですね。なんの魚ですか?

問うと店主は、腹魚です。ご覧になりますか、と私を厨房へと誘った。
紺色の暖簾をくぐると、そこには大きな生け簀があり4匹の大きな魚が泳いでいた。

魚、だろうか。立派な尾びれや鱗はある。ただ、頭部には目を刺すピンク色のモップのような毛が生えており、従来の魚の口とは違い嘴がついている。 それらは全体的に角も丸く、冗談のような、キャラクターのようなフォルムをしている。

他の魚類と徹底的に違うところは、これらは腹を下に突き出して、上体を起こして泳ぐんです。人魚みたいに。

店主はそう言うと、一匹の腹魚を捕まえ始める。午後からもお客さんがたくさん来てくれるんでね。間に合わせないと。

繁盛してますね、と私が言うと、

おかげさまで。美味しいんですよね、きっと。でも、この4匹が最後です。もうこれで数が足りるので。

私は何気なく店に飾られた写真を見た。従業員や創業者のたくさんの写真の中に、店主の家族写真がある。
家族のうちの一人の顔が、ゆっくりと腹魚の顔に変わっていった。私の背後では店主の手により、腹魚が捌かれ、死んでいった。

人間の顔をして笑っているのはあと3人。

数が合って良かったですよ、と手を休めること無く、また店主が呟いた。



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