個人的・隠れた名盤5選

 音楽が好きです。電車に揺られている瞬間も、公園のベンチでディープキスをしているカップルの前を横切る瞬間も、丸亀製麺で列を進みながら「あ、やっぱりさっきイカの天ぷら載せればよかったな。でも今さら引き返せないしな。うわぁ、失敗したな」と後悔する瞬間も、つねに音楽を聴いています。

 そんな僕が、個人的に選んだ隠れた名盤を紹介します。あくまで「隠れた名盤」なので、ゆらゆら帝国の『空洞です』とか、フィッシュマンズの『空中キャンプ』とか、はっぴいえんどの『風街ろまん』とかは選んでいません。
 また、ここで紹介するのは、すべて僕が勝手に想像して生み出した、存在しないアルバムです。必死にSpotifyを探しても、ディスクユニオンに行っても絶対に見つけることはできないのでご了承ください。


NIAGARA RADIO/大瀧詠一(1994)

M1 オープニング・ジングル
M2 Calling Occupants Of Interplanetary Craft
M3 陽気な男
M4 お漬物ブギ
M5 おっちょこちょいDJ
M6 ミディアム・ジングル
M7 Apologize
M8 雨のミッドナイト
M9 不思議なおたより
M10 陽気な男Part 2
M11 みんなで夜ふかし
M12 エンディング・ジングル

 当時歌手としての活動はほとんど行っていなかった大瀧詠一がナイアガラ・レーベルからリリースした実験作。中学時代はラジオクラブに所属し、自作したラジオで米軍極東放送やニッポン放送を愛聴していた大瀧が、そのルーツとも言えるラジオをテーマに制作したコンセプトアルバム。大瀧が1976年に発表した、本作と同様にラジオ番組をテーマとするアルバム『GO! GO! NIAGARA』よりも構想期間をじっくりと設け、不完全燃焼に終わっていた『GO! GO! NIAGARA』を、より高い完成度の作品として昇華している。
 架空のラジオ番組のオープニングテーマ(M1『オープニング・ジングル』)で始まり、カーペンターズの楽曲の、ラジオDJと宇宙人の掛け合いする部分を日本語で大瀧詠一が演じた『Calling Occupants Of Interplanetary Craft』や、番組がCMに行ったのにラジオDJが作家と喋っている音声が流れてしまい、ラジオDJが「これはいかん!!」と言って慌ててカフを下げる音で終わる曲(M5『おっちょこちょいDJ』)など、大瀧詠一の遊び心がふんだんに盛り込まれた作品となっている。
 また、5曲目の『おっちょこちょいDJ』では、大瀧詠一と親交のあった高田文夫がDJ役を演じていたり、9曲目の『不思議なおたより』では、ビートたけしのオールナイトニッポンのハガキ職人だった、ラジオネーム「長嶋ヒゲ雄」に高田経由で作詞を依頼するなど、高田文夫が本作に大きく関わっている。

採集/ザ・縄文人ズ(1974)

M1 火打ち石・エイト・ビート
M2 採集に行ってきます
M3 縄文人の大予言
M4 火の用心
M5 縄文土器の値上げ断固反対
M6 モース博士の悩みのタネ
M7 貝塚に異状有り
M8 竪穴式住居ブルース
M9 木イチゴの歌
M10 我ら縄文人にもちり紙を売れ
M11 縄文人は三億円事件とは全くの無関係です
M12 藤村おっかねェの歌

 大阪を中心に活動していたフォークバンド、ザ・縄文人ズが1974年にリリースした、デビューアルバムにしてラストアルバム。ザ・縄文人ズは大阪大学の学生だった米村通彦(みちひこ)、神戸市外国語大学の原田俊雄、関西医科大学の園田洋子らが結成した、縄文人の恰好をして縄文人の目線から現代社会を皮肉る歌詞を歌うグループだったが、メンバーの3人とも考古学に関する知識は無かった。
 「ショーウインドウに飾られた縄文土器を指を咥えて眺める 近ごろ値上げが深刻で 縄文土器もろくに買えねェ」という歌詞が印象的な『縄文土器の値上げ断固反対』や、縄文人目線で水俣病を描いた『貝塚に異状有り』など、ユニークな作風で人気を集めた。
 また、当時たくさんの遺跡を次々と発見し、「神の手」と称された考古学者・藤村新一をテーマとした『藤村おっかねェの歌』は個人的にお気に入り。ツルハシが岩石をカツンと叩く音で始まるこの曲では、「息を潜めろ 奴が来る つるはし担いだ藤村が オラたちの暮らしを丸裸にしにやって来る」と、藤村新一による発掘調査に怯える縄文人たちを描いている。2004年にザ・縄文人ズのデビュー30周年を記念して作られた『採集』のリマスター版では、藤村新一の旧石器捏造事件を皮肉った『藤村ザマァみろの歌』が新たに追加された。

こんな夢を見た/乃木坂46(2022)

M1 こんな夢を見た(作詞 秋元康 作曲 小室哲哉)
M2 あいまい(作詞作曲 草野マサムネ)
M3 流星群を見に行こう(作詞作曲 山崎まさよし)
M4 涙にサヨナラ〜Good BYE, Tears!!〜(作詞作曲 ナオト・インティライミ)
M5 音符を風に乗せて(作詞作曲 松任谷由実)
M6 まぼろしツーリスト(作詞作曲 奥田民生)
M7 贈りもの(作詞 俵万智 作曲 岡本真夜)
M8 toy box(作詞作曲 桜井和寿)
M9 春のフォーエバー(作詞作曲 KAN)
M10 黄昏時のヴィーナス(作詞 松本隆 作曲 星野源)

 乃木坂46のCDデビュー10周年を記念して、秋元康を含む12名のアーティストが10曲の作詞・作曲を行ったアルバム。スピッツ好きとしては『あいまい』の花鳥風月に収録されてそう感が好きだし、センターの早川聖来さんの鼻腔をつたうような歌声がとてもマッチしていて好み。ギターのリフが印象的な奥田民生作の『まぼろしツーリスト』は、「ここはまぼろしの街で 私はまぼろしツーリスト 現実と夢のすき間を歩いていく」という歌詞が、アイドルという夢の舞台で仕事をしている彼女たちを象徴しているような気がする。
 8曲目の『贈りもの』は、作詞が俵万智、作曲が岡本真夜という少し意外な組み合わせだが、俵万智が書く直球の青春ラブソングと、岡本真夜による華やかなメロディーラインがこの曲を王道アイドルソングたらしめている。実際ライブでもかなり盛り上がる曲で、シングルカットされていないながらもファン投票でトップ10にランクインすることもある。

小島電機店舗内音楽/黛敏郎(1973)

M1 スイッチによるエフェクト
M2 トースター・カンパノロジー
M3 クーラーと風鈴によるフォノロジー・サンフォニック
M4 洗濯板のための輪廻

 これはさすがにマニアックすぎて、相当の音楽好きでも知らないんじゃないか。それもそのはず、このレコードはたった200枚、しかも栃木県の一部の地域でのみ発売されたシロモノで、現在もほとんど出回っていない。
 このアルバムは、当時栃木県内にのみ展開していた家電量販店、小島電機(現コジマ)の社員で電気技師だった若林一郎が、作曲家の黛(まゆずみ)敏郎に依頼して作成した店舗内BGMのサウンドトラック。当時、NHK電子音楽スタジオで実験的に電子音楽作品を発表していた黛敏郎に、電気技師だった若林が「私は趣味で電子楽器を作製したのですが、ぜひそれを用いて、家電をイメージした曲を作曲していただけませんでしょうか」と直談判し、それを面白がった黛が二つ返事で依頼を引き受けて制作された。テレビのチャンネルをカチャカチャと回す音を編集した『スイッチによるエフェクト』や、ギロのように洗濯板を奏でた『洗濯板のための輪廻』など、前衛的な電子音楽作品が4作品も収録されている。しかし、作品の完成に歓喜した若林が上司に相談もせず勝手に小島電機の店舗内でこれら4作品を流したところ、従業員や顧客からの苦情が相次いだため、一週間ほどで店舗BGMとしての使用を諦め、これらの作品はレコードとして店内で販売されることになったそう。

LIMITED/フジファブリック(2012)

M1 Window
M2 銀河鉄道
M3 LIMITED
M4 アボカド・サラダ
M5 Sing different.
M6 ゆびきり

 2011年に発生した東日本大震災に衝撃を受けた志村正彦が、「故郷とは何か?」「人生とは何か?」をテーマに据えて発表したEP盤。「横になって考えよう 考えてるふりして眠れたらいいな 眠れたらいいのにな」という歌詞で始まる『Window』は、震災後に東京でほとんど不自由のない生活を送っている自分へのもどかしさを歌っているし、表題曲の『LIMITED』では、「商店街を抜けると そこには馴染みの公園があって 少年たちがはしゃいでいる 僕はサドルから腰を浮かして 踏切を飛び越えた」と日常を歌っているものの、その日常が永遠ではないことをタイトルが暗示している。
 個人的には、2011年に発売されたiPhone 4SのCMソング、『Sing different.』が収録されているのが嬉しい。この曲はRolling Stonesの『She’s A Rainbow』のあのイントロのリフを本歌取りしたメロディーがおしゃれで、曲名も『She’s A Rainbow』がMacのCMソングに使われていた頃のAppleのキャッチコピー「Think different.』を文字っているのがシャレが効いていて良い。


以上、個人的・隠れた名盤5選でした。ぜひみなさんの知っている隠れた名盤があれば教えてください。

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