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続・京都〜日光を9日間で走った話(その5)

「お客様、窓からお城が良く見えるお部屋を用意しておきました」

おそらくそのホテルの支配人は、疲労困憊の出で立ちをして現れた眼前の男を見て、せめて翌朝はゆっくり外の景色でも見ながら休んでほしい、というおもてなしの精神からその言葉を発したのでしょう。

しかし、明日は9日間中の最難関区間です。去年まさに満身創痍で夜遅くホテルにたどり着いた苦い経験を持つ私は、とにかくこの日は朝早く出発して時間の余裕を持たせねば、と考えておりました。翌朝、私は窓のカーテンを開けることもなくそっとフロントのカウンターに鍵を置き、昨日の走行終了地点まで向かう名鉄の始発電車の車窓の人となりました。ああ!犬山城。次回はゆっくりお城見物でもしたいものです。

そして、最難関コースのスタートです。去年同様雲ひとつ無い青空の下、私は木曽川沿いのコースをひた走り、中山道最初の山道に向かいました。この自販機が途中ほとんど無い30キロの山道を干からびることなくいかに乗り切れるかに今回の行脚の成否がかかっています。山道に入る前のコンビニと自販機で補給も万端。満を持して山に入って行きます。

美濃路は御嵩宿を過ぎると険しい山道が続く。その冒頭にある坂は牛が転んで鼻を欠けるくらい急だということで牛の鼻欠け坂と呼ばれる。


しかし、さすが二年目ともなると違います。コースの険しさや付近の景勝地など、頭では忘れていても体は覚えており、非常にスムーズに先に進んでいきます。
まさに去年走って完走している私はエリートなのではないか!?などと考えていると前方にランナーが見えてきました。久々の同業者の登場に相好を崩して話しかけると、彼(A氏)は今年初めて参加し、京都からこの先の中津川まで走り終えて電車で今日中に東京に帰る予定とのことです。

おお、ここは先輩としてアドバイスをせねばなるまい!

私は彼に「この先自販機があまりない、意外と厳しいコースなので今日中に帰るのであれば急いだ方が良い」などとアドバイスをし、「では」と言いながらさっそうと先に進みました。A氏も私の前年度完走者という信頼感からか、少し遅れて私の後を迷わず着いて来られました。
しかし、しばらくするとどうも道の様子がおかしいことに気づきます。中山道の山道は舗装されていない旧道が多いはずなのに、妙に綺麗に舗装された道が続きます。

まずい、、ひょっとしたらさっきの分岐で道を間違えたか?しかし今更後戻りするのもさっきの方に格好がつかない。

まぁそのうちまた本来の道に合流するだろう、と何の根拠もない思い込みのままそのまま突き進んだのですが、しかしその道は無情にもますます本来の道から遠ざかっていき、そしてついに、眼前に下記の運命の標識が現れることになりました。

「この先、ゴルフ場敷地内につき立ち入り禁止」


レースというのは人生に似ています。
人間、誰しも過ちは犯すこと、それは人生の道理でありましょう。しかしその自らの過ちを直ちに認め、正しき道に進み直すべし、そのこともまた、人生の大いなる真髄であるとも言えます。「すみません道を間違えました!」とA氏にお詫びを入れ、元来た道を辿って本来の道まで一緒に向かいました。
相当な無駄な時間をともにしてしまったA氏とはそれ以来お会いしておりませんが、その後彼は東京行きの電車に無事乗ることができたのでしょうか。私が道を間違えたばかりに名古屋で手羽先も食べることなく新幹線に飛び乗る羽目になったということは無いでしょうか。

せめてホームできしめんは食べて帰っていてほしい!と私は神に祈りながら、やはり今回もどっぷり日が暮れてしまった中山道の道を今日の宿に向けて進んで行きました。

(次回に続く)



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