京都〜日光を9日間で走った話2024(その8)
「ごーるでんうぃーく」と書いて変換すると、まず最初にGWと変換してしまうかな漢字変換システムは、馬鹿だと思うのです。
このパソコンは日本語を解っているのか? 「GW」と書きたいのであれば最初から2文字で書くのであって、わざわざ「ごーるでんうぃーく」と書くのはカタカナで書きたいからに決まっているではないですか。
というわけで本日の記事を書こうとしたさなかにも、グーグル先生から「GW」などという無慈悲な文言を眼前に出されてしまい、私はやり場のない怒りをパソコンにぶつけている次第です。いや、前置きはこのくらいにして前回の続きです。
この大会が開催されるゴールデンウィークは、一年の中でも長距離のランニング大会を行うには絶好の季節です。晴天率が高い、日が長い、気温も高すぎず低すぎず、長い休みも取りやすい。そうした理由から、国内では本大会に限らずこの種の大会が数多く開催されてきました。
その中の一つに、東京の葛西臨海公園から荒川を上り、群馬から長野に入って今度は千曲川沿いを下って日本海に至るという、総距離500キロ以上にも及ぶ「川の道」という大会は非常に有名です。このレースの出場倍率は東京マラソン以上と言われており、初出場を果たすには数年がかりであるとも聞きます。参加費用も36,000円。全く世の中にはなんと酔狂な方が多いのでしょう。
それに比べれば、この京都から日光に向けて走る大会は、同じ主催者の開催にも関わらず倍率も低く、エントリーには何の支障もありません。しかも参加費は6,000円です。
といったように、この2つの大会には埋められることが無い格差という溝があるといいましょうか。少なくとも気が短い私はたかがランニングの大会に出るのに数年かかるというのはとても耐えることができずずっとこの京都〜日光の大会に出てきました。
しかし。
この2つの大会のコースは、実は長野県佐久平付近で、交差するのです。
すると、その2つの大会に出ているランナーは、GW中にその場で激突する可能性もあるのです。まぁ激突までは行かずとも、そこで会ったら百年目。得も言われるライバル心が燃え盛り、まさに一触即発の危機に見舞われるやもしれません。「けっ、たった30人しか出ていないちんけな大会に出てやがるぜこの貧乏人が」「いやいや、こちとらレースに出るのに何年も待つほどヒマじゃないんでね。暇人は羨ましいわ」などというセリフが飛び交い、まさにレースそっちのけの格闘が始まる可能性もあります。主催者はこの交差点では厳重体制を引くべきと思われますが、今までスタッフを配置したという話もついぞ聞きません。
まぁ、よく考えてみるとお互い500キロを超えて走るレースなのです。その中でそのピンポイントの交差点に存在する確率は、その交差点の幅が10メートルあるとしても、10/(500X1000) 。さらにお互いが出会う確率となるとその2乗で、実に25億分の1となります。実際過去2回のレースでも私は全く遭遇しておりません。
そのようなわけですので、私はその日も特に何の気を止めることもなく、下諏訪から信濃追分の宿を目指して進んでおりました。前日の雨は綺麗に晴れ上がり、和田峠の頂上からは北アルプスが綺麗に見えます。
そして和田峠を下り、うだるような暑さが少し和らぎかけてきた頃、その運命の交差点に差し掛かりました。
信号が赤に変わってその場で止まったその時、ふと右を見ると、
まさにそこには、私とは異なる種類のゼッケンをつけて懸命に前に進むランナーの姿があったのです。
私はその時、悪態を付く代わりに思わず下記のように叫んでしまいました。
「おーい!」
「え?あ、そのゼッケンは!?」
「はじめまして。お会いできて光栄です!」
考えてみれば、お互い250キロ以上走ってきた仲間です。即座に固い握手を交わし、記念撮影をして、そしてお互いの肩を叩いて健闘を誓い合う。100年以上前から定められた運命であったかのような奇跡の時が流れました。おお、友よ! お互いこれからも走り続けていれば、いつの日かまた出会うこともあるに違いない。
私はその高揚感を持って、その日の夕食は普段あまり食さないココイチのカレーの大盛りを気前よく注文し、心地よい満足感に満たされたことは言うまでもありません。ココイチは松屋などで供されるカレーに比べるといささか値段は張るのですが、奇跡の出会いのエッセンスに比べればなんということはないでしょう。まぁ、あとで「そこで食べるのはそもそもカレーか?」などと他人に言われもしましたが、良いのです。なぜならカレーは美味いのだから。その場の高揚感というエッセンスがありさえすれば、海の家のレトルトカレーですらフランス料理に勝つこともできるのだから。フランス料理の味はよく知りませんが。
栄光のゴールまで、あと3日。
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