見出し画像

京都〜日光を9日間で走った話2024(その4)

「いや〜やっぱりホテルの朝食は美味い!」

毎年定宿にしている彦根市のホテルで一日目の夜を過ごした翌朝、私は宿で無料で提供される朝食とモーニングコーヒーを堪能しておりました。道中はどうしてもコンビニ食が多くなる中、せめてホテルでの朝食でビタミンや食物繊維、カルシウムやミネラルを補給したい、そう私が思ったとしても一体誰が非難できるというのでしょう。

「さて、そろそろ出かけるとするか」

朝7時前にホテルを出発すると、抜けるような青空。夕焼けと下駄を投げて表が出た日の翌日は晴れるという、日本の古き良き伝承の威力は今だ健在と申さねばなりません。
しかし、この区間がこれほどまでに晴れたのは初めてです。いつも雨に濡れた姿が艶めかしい醒ヶ井宿も今日は爽やかな5月の美女の装い、関ヶ原古戦場の落ち武者たちもこの陽気に無事成仏されたようで今年は至って平穏です。近江路から舞台は美濃路へ。私は順調に歩みを進めていました。

しかし、昼11時ごろ、妙に暑いことに気が付きます。もちろん、晴れているから多少はやむを得ませんが、しかし走っていて明確に「暑い!」と感じる経験は、今シーズンはまだ積んでおりませんでした。
あいにく、このだだっ広い濃尾平野には日差しを遮る場所などどこにもありません。

長良川橋梁を渡る。全く遮るもの無し。


「まいったな〜 ここでこんなに暑くなるとは、ホテルでゆっくり朝食なんて取らず早く出るべきだった」

あとの祭りとはこのことですが、それでも進まねば今日の宿にはたどり着けません。喉の乾きを覚えながらフラフラと進んでいくと、遠くなる意識をかき分けるかのように、前方に何やらピンク色の直方体の建造物が現れました。

あ、あれは!!

それはそれは輝かしい、我ら長距離ランナーには大いなる福音というべき、神々しいドリンクの自販機が姿を現したのです。しかも100円という激安価格が踊っています。

この地区では良く見かけるこの100円自販機。珈琲やお茶、炭酸飲料など各種ペットボトルもさることながら、私の目を引いたのはカフェイン入り炭酸エナジードリンクでした。
この手のドリンク、関東では150円は下るまい。長旅ではコストパフォーマンスも重要です。よし、ひとつここはこのエナジードリンクを試してみよう。
私はこの日頃全く目にすることのないエナジードリンクを買ってその場で一気に飲み干し、そのあまりに爽快さに次のポイントでも購入しては飲み干し、といったわけでなんとか暑さに対抗していきました。

しかし。

日が落ちて夕方になると、どうも調子がおかしくなりました。そろそろ食料を補給すべきという時間になっても、全く空腹感が無いのです。

これは、、、暑さとカフェインと炭酸で胃がやられたか。

暑さ、カフェイン、炭酸。この胃の不調を呼び起こす三重奏ともいうべき黄金のトリオに苛まされ、私はほとんど走ることができなくなりました。
おりしも、その時に走行している区間はロードサイドにラーメン屋などが点在していました。日も落ちて美味しそうなラーメンの香りが鼻をくすぐりますが、しかし、豚骨の匂いにも煮干しの香りにも全く私のお腹は反応しません。

まいったな〜、食事を取らないと明日の体力が持たない。コンビニで弁当を買ってホテルで無理に流し込むか。

ちょうど夜9時に今日の宿についた私は、とりあえず風呂と洗濯、充電を済まし、弁当の半分をやっとお腹に流し込んで横になりました。明日は美濃路最難関の十三峠越えが控えるコース。なんとか体力を回復させねば!

しかし。

横になって10分もたった私の体は見事に弁当に拒否反応を起こし、逆流という名の排泄によりきれいにトイレの便器に戻してしまいました。体もフラフラで栄養も補給していない、こんなんで明日の70キロは走れるのか。三年目にして初のリタイアか! この記事はどうなるのか!

強烈な不快感に苛まれながら、私は布団の上で悶々としていました。

(その5に続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?