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続・京都〜日光を9日間で走った話(その6)

安かろう、悪かろう、などという言葉は、まさに遠い昔の遺物と化してしまったのかもしれません。
例えば、皆様もユニクロがお好きな方もいらっしゃるかと思います。一昔前は、かの製品と言えば安価であるがデザインも野暮ったく品質も良くないなどと囁かれておりましたが、今やそのような風評は全く過去のものとなり、そして今やユニクロをしのぐ安価で良質なブランドも多数排出している新たなる時代が到来しております。

その代表が、かの偉大なるブランド「ワークマン」でありましょう。

元々は建築などの現場で働く方々のためのウエアを販売していたこのブランドは、今やおしゃれな女性専用のアパレルショップなども手掛けるにいたり、数年前からはランニング用のウェアやシューズにも進出しています。私も去年の本大会に出走するにあたり、ウェアやレインウェア、ソックス、防寒具など多くに本製品を採用し、見事完走を果たしました。

すると、周囲の方々から下記のような声が上がりました。

「来年はシューズなども含めて全身ワークマン製品で揃えて完走すれば、ワークマンの公認アンバサダーになれるのでは」

確かに、570キロものコースをすべてワークマン製品で問題なく走りきったとなれば、彼らにとっても「過酷なレースでもその価値を発揮した」といいうまたとない証左を獲得できることになるわけで、そういったオファーが来る可能性の無くはないかもしれません。

しかし。

シューズだけはちょっと採用は難しいのではないか?

確かに彼らは、通常2万円以上するようなカーボンプレート入りのシューズを2900円で販売するようなメーカーですが、まだ歴史が浅いこともまた事実です。シューズはランナーの命、この安価なシューズに本大会の命運を託すには、まだいささか早すぎるのではないか。

との判断のものと、私は昨年に引き続き某人気国産メーカーの1万円のシューズを履いて参加しておりました。金額で安心を買ったと思えば安いものです。

というわけで、4日目の朝です。私は今日も全身ワークマンのウェアにA社製シューズという出で立ちで宿を出発し、爽やかな木曽路を走っておりました。去年雨天だったこの区間も、今年は抜けるような青空。街道沿いに走るJR線の電車が、残雪をいだく日本アルプスの山々をバックに走る姿は非常に絵になりまず。


木曽福島に向かう国道。右に走るJR中央線と、奥に見える中央アルプスの山々が非常に絵になり、撮り鉄と呼ばれる鉄道マニアの聖地とされる


そして昼過ぎ、途中一緒になった同業者のB氏と妻籠宿で世界一美味しい(と申しても過言ではない)五平餅を食した後、美しい山々を眺めながら本日の目的地である木曽福島に向け順調に進んでいた所、後ろからランナーの方に声をかけられました。

「こんにちは〜」

本大会のゼッケンを着用している同業者との遭遇に相好を崩した私でしたが、次の瞬間、私は「あっ!」と大きな叫びを上げました。

ワークマンだ!

足取りも軽く我々に追いついてきた彼が履いていたものは、まさに私が今回着用をためらったワークマンのシューズでした。しかも聞くとかなり使い古しなのだそうです。

「これから街道の下まで降りて、名所の寝覚の床の見物をするんですよ〜。ちょっと先に行ってますね!」

と言いながら非常に軽快に抜き去っていった彼は、私にとって一度は諦めたワークマンアンバサダーの姿がありありと重なったと申しても過言ではありません。使い古しのワークマンのシューズで500キロのレースに出走する、彼こそがまさにその地位にふさわしい、そう私が申しても一体誰が異を唱えることでしょうか。

弘法筆を選ばずとも申しますが、彼のような信頼を私はまだまだこのメーカーに寄せていなかったのは大いに恥じるべきことだったやに思います。よし、明日また彼に遭遇したら、彼のワークマンに対する思いを存分に聞いてみよう。

木曽福島に19時到着し、スーパーで購入したパスタとプロテインドリンクを飲み、いつものように洗濯を終えて就寝した私でしたが、その翌日、まさに本大会随一の驚愕の事実を知ることになります。

(次回に続く)


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