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300字小説まとめ/tononecoZine

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300字ショートショートのまとめです
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【300字小説】折りたたみ症候群

 平成の中頃、折り畳み式の携帯電話が一世を風靡し、そのトレンドは業界で瞬く間に主流となった。また、局地的なムーブメントだったがある地域ある界隈では一時期、猫も杓子も折り畳み、という行き過ぎた事象が観測されていた。  折り畳みネイルから始まった流行は、あっという間に常軌を逸した広がりをみせた。折り畳みデパート、折り畳み恋愛、折り畳める実家…と、もはや節操がなかった。しかし躍起になって自らの身体を折り畳もうとする輩が出てきたあたりで、誰かが声をあげた。「そのままの方が美しいので

恋する狛犬

 九州地方のとある島の神社には、昔から不可思議な噂があった。  何でも、夜な夜な狛犬たちが散歩にでかけているらしい。  尾っぽをフリフリ、でも石造りなもので足音はゴロゴロと、仲睦まじく近所を徘徊するのだそうな。  口を開けた狛犬は延々と愛を語り、もう片方は黙ったままウンウンとまんざらでもなさそうにその言葉を聴いている。絶え間ない愛の囁きに興奮するのか、いつしか互いの尾っぽを追いかけくるくると周り出す。その戯れはやがて発光し、スピードを増すと明滅し始める。星空の如くひとしきり

紙さま!

きのう古本屋で買った文庫本から「ニャア」と鳴き声がした。 たしかに、紙と紙の間にはあらゆるわくわくが挟まっている気がする。ノートだとか本だとかコピー用紙のかたまり、それぞれの隙間に。 ページを捲るたび、時には星々が煌めき、カラフルな未知がその片鱗を魅せ、触れたことのないおまじないや祈りの言葉がそこに息づいているような。 え?でも、こんなところから猫?? 今度は文庫の隙間から白いふわふわとしたしっぽがのぞいている。ゆったりと、左右に振れるしっぽ。 やがてするりと、黄色い

ドリーミン・ポン・デ・ケージョ

今日は購買でお気にのパンが買える日。通っている高校では週一で街のパン屋が出店する。私はその店のポンデケージョの大ファンで、朝からそのことで頭がいっぱいだ。あのチーズの練り込まれたもちもちは罪。 4限が終わって足早に購買へ。 もう顔馴染みになったレジのおばちゃんが「特別なのあるわよぉ!」と一番に教えてくれた。指さす先には特大のポンデケージョ。瞬間、私のテンションは爆上がった。ずっしりみっちり座布団の親戚みたいなそれを買って教室へ戻る。 いざ食べようと思ったけれど、なんだか愛

幸せ悪玉コレステロール

 今日も今日とて仕事へゆく。電車を乗り継ぎ都心の職場へは小一時間。車内へ乗り込んですぐ、イヤホンを装着し目を瞑る。するとわたしと外界とは、簡易的に遮断される。  こんな妄想をする。中央線は東京を流れる動脈で、地下のメトロはまるで毛細血管。乗客であるわれわれ血液を、隅々まで運んでゆく。おや?わたしひとりくらい予定通りの行動をせずとも、母体にさして影響もないのでは。  最寄りの駅へと着く。しかし社会へのちいさな反抗として、わたしは電車を降りずにそのまま乗り過ごす。  さて遅刻

謎のしるし

 あなたから借りた短編集には、謎の印がたくさん付いていた。丸で囲ったところや波線、はてなマークは元より、三角四角二重丸、※印に星マーク、魚や猫のマークが印されているところまであって、わたしはつい物語よりもそちらに夢中になってしまった。  主人公が昔の親友と数年ぶりに再会するシーンになぜかおにぎりのマークが付いていたり、人生の一大決心とも言える行動の描写の横にはおでんのマークがあった。  気もそぞろに物語たちを読み終え、あとがきまで辿り着く。そこには余すとこなく小さな花々が