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300字小説まとめ/tononecoZine

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300字ショートショートのまとめです
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#創作文

甘い馴れ初め

 出会った頃、お互いにあまりピンときてなかったと思う。  甘いものは得意じゃないとか言いながら、コンビニで肉まんかあんまんかの二択で後者を選んだ彼をわたしは理解できなかったし、めちゃくちゃお酒を飲むのに締めにしっかりデザートのパフェを頼むわたしを見て彼は言葉を失ったらしかった。  初めて彼を意識したのは、誕生日にサプライズでくれたプレイリストだった。洋楽ばかり知らない曲がたくさん入っていた。何気なく聴いているうちにすごく好きになって、タイトルや歌詞の意味を調べると、全部の曲

バスタブのミルキーウェイ

 気まぐれで買った入浴剤のアソート。仕事で疲れた日のバスタイムにと大事に使っていたけれど、あっという間に最後のひとつ。ラストのそれは「ミルキーウェイ」と名付けられていた。  湯船に溶かすと真っ白なお湯になり、キラキラと細かなラメが散っている。とてもきれい。思い立って電気を消すと、脱衣所の穏やかな灯りだけが頼りのロマンチックな雰囲気に。うん、なかなか良いかも。  やわらかなお湯に癒されていると、目の端に何かちらちらと映り込む。よく見れば、湯船に散るラメが時折ヒュンヒュンと落

春の日に

夏至は冬至に出逢いたかった。真冬の夜、あの凍てつく濃紺の星空を従えるその人はどのようなお方なのか。いくら憧れ慕っても、決して逢えはしないのだけど。 冬至も夏至に出逢いたかった。あの光り輝く灼熱の太陽に、夏の盛りを照らされ続けるその人はどんなお方なのだろう。いくら想い焦がれても、決して逢えはしないのだけど。 一年のちょうど真ん中の日、それぞれに彼らは互いを想い合った。 やがて孫の孫の孫の代。家系図からとっくに名前が消え去った頃、彼らの子孫は偶然高校のクラスメートとなった。

ともだち初め

「お、初イヌだニャ〜」  元旦の朝にご主人といつものコースをお散歩していると、近所の野良ネコに声をかけられた。 「違うニャ。さっき白いチビイヌを見たから、初クロだニャ」  たしかに僕は黒ラブのミックスだけど「ショコラ」っていうかわいい名前があるのに。なんて失礼なやつ。これだから正月に浮かれて何にでも「初○○」とか「○○初め」とか言うやつは。 「クロ〜今年もよろしくニャ〜」 「う、うん!よろしくワン!」  僕は思わず尻尾を振ってしまった。  新年の挨拶だなんて、僕とアイツ

渋谷を捨てよ多摩川へ出よう

渋谷でハロウィンがしたい。 学生の頃漠然とそう考えていたが、冷静に考えて陰キャには度の過ぎた夢だった。パリピに憧れていた自分よ、1%でも彼らの仲間入りができると思ったか。 でもやっぱり違った。結局一度も渋谷でハロウィンなんてしなかったし、それどころかまともにパーティーすらしたことがない。 時は経ち社会人も3年目。相応に疲れている。貴重な週末、ハロウィンで激混みな渋谷になんか絶対行きたくない。そもそもジャック・オ・ランタンよりかぼちゃの煮っ転がしが好きだし、ハロウィンよりも

空の結び目

ロップイヤーは言う。空と空には結び目があるのだと。それも、兎がぴょんと跳ぶくらいの高さのところに。 私たちの頭上の空が遠く地球の裏側へと続くのは、地上に無数に点在するその結び目のおかげだという。そしてそれによって、世界の均衡が保たれているのだそうな。 また、誇らしげに胸を張る。空の端と端を結んだ様は、まるでわれわれの垂れ耳を結んでいるかのようにとても愛らしいのだ、と。 続けて嘆く。嗚呼、あなたにも見せてあげたいのに、あれはわれらにしか見えない。 そして運良く結び目を見つ