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300字小説まとめ/tononecoZine

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300字ショートショートのまとめです
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2022年12月の記事一覧

春の日に

夏至は冬至に出逢いたかった。真冬の夜、あの凍てつく濃紺の星空を従えるその人はどのようなお方なのか。いくら憧れ慕っても、決して逢えはしないのだけど。 冬至も夏至に出逢いたかった。あの光り輝く灼熱の太陽に、夏の盛りを照らされ続けるその人はどんなお方なのだろう。いくら想い焦がれても、決して逢えはしないのだけど。 一年のちょうど真ん中の日、それぞれに彼らは互いを想い合った。 やがて孫の孫の孫の代。家系図からとっくに名前が消え去った頃、彼らの子孫は偶然高校のクラスメートとなった。

渋谷を捨てよ多摩川へ出よう

渋谷でハロウィンがしたい。 学生の頃漠然とそう考えていたが、冷静に考えて陰キャには度の過ぎた夢だった。パリピに憧れていた自分よ、1%でも彼らの仲間入りができると思ったか。 でもやっぱり違った。結局一度も渋谷でハロウィンなんてしなかったし、それどころかまともにパーティーすらしたことがない。 時は経ち社会人も3年目。相応に疲れている。貴重な週末、ハロウィンで激混みな渋谷になんか絶対行きたくない。そもそもジャック・オ・ランタンよりかぼちゃの煮っ転がしが好きだし、ハロウィンよりも

空の結び目

ロップイヤーは言う。空と空には結び目があるのだと。それも、兎がぴょんと跳ぶくらいの高さのところに。 私たちの頭上の空が遠く地球の裏側へと続くのは、地上に無数に点在するその結び目のおかげだという。そしてそれによって、世界の均衡が保たれているのだそうな。 また、誇らしげに胸を張る。空の端と端を結んだ様は、まるでわれわれの垂れ耳を結んでいるかのようにとても愛らしいのだ、と。 続けて嘆く。嗚呼、あなたにも見せてあげたいのに、あれはわれらにしか見えない。 そして運良く結び目を見つ