羅列詩集


いろはにほへと

色は狂えど熱に酔い
蝋の火揺れる拠り所
華の命に寄り添うは
匂い立つ程鮮やかに
頬を彩るさくらんぼ
臍を伝って羞らいへ
とうに二人は粛々と

散り開く欲ただ穿ち
輪廻の惑い手に滑り
濡れた罪なら償えぬ
類は呼ぶとも裏返る
女の嘘やせつなさを

私あなたを恨んだわ
返す言葉は愛だろか
夜に爛れた三日月よ
誰もが疎む性なんだ
劣情溢れ吐き出され
その反動で減る酸素

徒然に身は聳り立つ
眠れず鳴らす肺の骨
長い吐息で艶やかな
裸婦の姿を祈るなら
無為に現る血が澱む

歌う鯨の是非を問う
今は怠惰に溺れたい
脳が滾って打つ波の
音は鳴り止み色は碧
悔やむ帳に咽び泣く
やおら瞬き降る星や
真赤に燃える痣の様

幻想越えて空を行け
不実の指が鳥を呼ぶ
恋より深き縁は何処
永遠を追う動機さえ
天に突き刺す反証で

喘ぐ亡者の解は嗚呼
最果ての世の美しさ
記憶に沈み疼くとき
夢に震える謎の比喩
眩暈に耽り地を進め
蜜は弾けて毒を産み
死を携える記号とし

映画のごとく遠き声
昼に騒つく怒涛の日
もう帰れない葬列も
背に一筋の罰を乗せ
砂を飲み干す獣です


失風講

アパートの壁には小さな孔あって
燐室の猿が毎日こちらを覗き夜で
知ってか死らずか風は降り病めず
脳をびゅるびゅると描き回すんや

安全鋏で切り刻む創造に苛まれて
いつかヤッテしまえ思うたばかり
まさか現実に鳴って逃げ堕すとは
隠れ覆した者の破れた空は廃色に

あれから凪続く理由は決まっとら
アイツ息咳とめた所為なんやろな
せや誰も必要とせんよって世界が
飢になる事なくして臓を殺がすん

突如に出現れるのは全部亡霊じゃ
偲び寄る季節を見過ごす冒涜じゃ
ほれ歪んだ線の咲き唖の姿ご覧よ
恐怖は素手に我が既に張り付いと


乱風譚

陰湿な春が肺に染り入る時めきと
揺るぐる雑多な詩体のざわめきを
そぞろ重ねる今は泣き肋の隙間へ
赤跡の風には血誘う名付け合って

早速あなたを想っておりましたの
二度も飲み干す欠片の味気なさで
犇めき閃いた光の憮然な態度だわ
あら生命線も伸びていらっしゃる

奇乱れる黄緑の病い人から伝って
足痕を辿る背にきりきり舞い上る
微熱の街に広がり集まれり期待の
誰がそれを喚び戻すだろか白ない

全くあなたを慕っておりましたの
濫らに幸福そよぐ空の向こうから
謎めき煌いた不思議な言葉繋ぐ雲
ほら折角の色彩が台無しですわね


プリンタ

初めての夜は
記号的な事件
白い背中にも
絶縁体の刻印
無意識は零れ
機械音に浸る
という具合で
何処に居ても
インク切れの
愚行を演じる
   ・
   ・
迸る自己愛や
頑なな依存症
不調和の欠片
取り残しては
積み上げたり
踏み潰しては
放り投げたり
   ・
   ・
   ・
擦れた表現が
僕らの限界で
それ以上は花
それ以下は灰
   ・
   ・
   ・
   ・
所詮コトバは
虚構の廃棄物
油紙を滑って
滲むばかりの
   ・
   ・
   ・
平面を躍れよ
酸化するまで
非バランスの
装飾で充分だ
誰も触れない
誰も歌えない
空っぽの筐体
   ・
   ・
前衛と書いて
没個性と読む
胸中ぐつぐつ
爆ぜる瞬間の
イデアを露呈
此ればかりは
プライドより
脱衣の方法論
という辺りで
    切断


タワーレコード

パブロハニーな君の首を噛む
つづれおりの音の悩ましさよ
ヨシュアツリーの下で眠って
僕の狂気を飼い慣らしてくれ

ラバーソウルの君の足を踏む
こわれものの音の艶やかさよ
マーキームーンの下で歌って
僕のハートに火をつけてくれ

明日なき暴走にひたりながら
追憶のハイウェイを越えたい
その物語は浮浪者のスリラー
夢を見る電気羊はパラノイド

白い暴動の渦中で踊りながら
パープルレインに打たれたい
その現実は不能者のイマジン
虹追う子供はストレンジャー

勝手にしやがれ だが怠るな
ネヴァーマインド 突き進め


月蝕夜ふたたび

欠けた月が虚空を銀色に染め
なだらかな曲線で大地は歪む
再生を告げる極彩のプリズム
張りつめた夜に光る黒鳥の目

汚れた血に酔う罪を贖うため
片足の女神が歌うレクイエム
陰獣たちは無機質にまどろむ
脳内に雪崩れ込むリアルな夢

止まらない時間の本当の意味
諦めを貼り付けた悲しい微笑
さまよい続ける どこまでも

救いを待つ魂を支配する悪魔
誰もが甘い誘惑に抗えぬまま
さまよい続ける いつまでも

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