見出し画像

その1 水になる

 takahashi/Aitataさん運営のマガジンに参加させていただくにあたり、初めてnoteに登録しました。長年某はてなで雑感を書き散らしてはきたけれど(htmlで個人サイトをつくっていた世代です……)、noteは役立つことを書かなければならない気がして遠い存在でした。今回こんなきっかけをいただき感謝しています。
 ここでは好きな本や絵本のことを書いていけたらと思っています。けれど、読書家でもないし知識もないので、相変わらず役に立たない個人的な好きを垂れ流したい。

 わたしは本でも映画でも音楽でも人でも、細部が好きで全貌を見失いがちなので、タイトルは「木を見て森を見ず」にしました。あと、このたびアイタタさんに「火は見ない」という歌詞を書いていただいたのでそこにもかけて。というわけで(無理矢理)
 これまでアイタタさんの企画で彼の詞に曲をつけて歌わせてもらった曲と、新たに書き下ろしてくださった2つの詞に曲をつけた曲をまとめ、「水になる」というタイトルで配信させてもらいました!嬉しい!
 奇しくもこのマガジンの開始とタイミングが合ったので、初回は本のことではなく、アイタタさんの歌詞とともに曲を紹介させてもらえたらと思います。長文ですがお付き合いいただけたら嬉しいです。

1.水になる

 アイタタさんにこれまでの曲をサブスクで配信させてもらいたいと相談したら、すぐ快諾してくれた上に「新曲も入れたら?」と「水になる」「火は見ない」という対になる2つの歌詞を書いて送ってくれました。天才という言葉は口幅ったくて苦手ですが、作詞のスピードも内容も言葉運びも天才だと思います。
 この曲は浅野電脳製作所さんがギター、ベース、ドラムを入れ編曲、ミックスをしてくださいました。何も伝えずともこちらの意図を最大限に汲んで幽玄な感じに仕上げてくれて、感謝してもしきれません。ゆらめくギター大好き。わたしはというと歌はデモのままだしほぼ何もしていない……。


水になる

すっと飲み込んだから
今はきれいなの
愛を飲み込んだから
今はきれいなの

流されてしまうなら
証拠を全部指先の先へ

すっと吸い込んだから
あなたは静かなの?
愛を吸い込んだから
あなたは居ないの?

落ちて弾けて飛んだ
ひとつひとつを集めて流した
それでも張り付くひとしずくが
またもうひとりを創り上げた

落ちて弾けて飛んだ
振動鼓動をあなたに伝えた
それでも張り付くひとしずくが
まだ居る私をここに残した

すっと飲み込んだから 私は居ないの

抜けた水になるの

 「~の」「~た」だけの文体が心地いい。アイタタさんの詞はメロディを呼ぶ気がしていて、その音を探す作業がたまらなく好きです。この曲も5分くらいでできました。
 さらに浅野さんはMVまでつくってくださいました。果てしなく素敵なのでぜひ観てください!


2.ちょっとだけ先の

 アイタタさんが書いた詞に曲をつける企画「シュール歌詞コンピ」の第1弾【Surreal words compilation】に参加させてもらったときの曲です。アイタタさんの書いた歌詞に参加者が曲をつけるという企画。DTMを始めたばかりで色々なことが分からなくて(今もだけど)、久しぶりにファイルを開いたらボーカルにリバーブが直にささってたし、声も様子がおかしいし、リップノイズまみれだったけれど、愛着のある曲です。


ちょっとだけ先の

永久がある そんなの分からないと
隣が笑った
長いカーブ 実は円なのかもと
科学の力

考えるのをやめる ちょっとだけ死ぬ

文字を記す ひと文字だけ書ける
科学の力
人の気配 感情面では浅く 薄皮の裏

考えるのをやめる ちょっとだけ死ぬ

 「考えるのをやめる、ちょっとだけ死ぬ」って端的で本質だなと、初めてこの詞を見た時おののきました。思考停止は死。

3.歩行

 シュール歌詞コンピ第2弾【Surreal words compilation ♯2】の参加曲です。いくつか歌詞が公開されていた中でこの詞を見た途端、どうしてもこれでつくりたいと思い前のめりで連絡させてもらいました。
 そういえば以前アイタタさんが「歌詞おろそうかな」ってツイートされていたのが忘れられない。書き下ろしの下ろしだと思うのだけど、アイタタさんから言葉が降ってくる感じがして。


歩行

僕は歩くのが遅い 言葉も出辛い
あっという間に人が消える
少し待ってほしい 信号渡る今だけは

僕は歩くのが遅い 深海魚の1つ
違う生物なんだと思う
今だけ聞いてほしい 感情話す今だけは

機械の足を持って 望む世界はこちらと
人をからかうカラクリの下心はすぐに見える
機械の心を持って 守り固めたつもり?
自分のことを本当は 何も分からなくなる

僕は歩くのが遅い 姿形を変えて
頭の中に飛ばしてみる
何故か優しく包む 人をやめた今だけは 

機械の足を持って 望む世界はこちらと
人をからかうカラクリの下心はすぐに見える
機械の心を持って 守り固めたつもり?
自分のことを本当は 何も分からなくなる

 セピア色の近未来で、かつて人間だった何かがゆっくり歩いている景色を思い浮かべながらつくりました。周りになじめず生きづらいひとが、そうではない人へ投げかけた痛烈なメッセージにも読める。自分の声ではあるけれど「機械の心を持って守り固めたつもり?」が聴くたびに刺さります。心底凄い歌詞だなと思っています。

4.国境警備隊フィリップ

 アイタタさんが「架空の人物コンピ『NAME』」【The NAME / compilation】という面白い企画を主催された際の参加曲です。特定の人物を据えて曲を書くというもの。他の参加者の方たちの作品、どれも凄く好きで未だに聴いています。 

 アイタタさんに「寒い場所でひたすら国境を守っている人」というアイディアをもらって、この曲だけはわたしが歌詞を書いています。「考えるのをやめる」と同じく思考停止で愚直に国境を守る人を皮肉ったのですが、逆に小難しいことを考えず日々をこなすことも生きる上では必要かも、という思いも込めています。日常はままならないことばかりだから。
 国籍を特定したくなくて様々な国で使われているらしいフィリップという名前をとりました。でも実際はロシアの荒涼とした雪原をイメージしていたので、サンクラにアップしたこの曲にロシアの男性がlikeを押してくれたのはちょっと嬉しかった。


国境警備隊フィリップ

吐く息が凍る 目深に被る帽子
黒い柵が並ぶ 肩に食い込むライフル
今日も国境を守る 命を賭して

雪が舞っている 誰ひとり通らない
音も飲み込まれ ひとり突っ立っている
今日も国境を守る 一分の隙もなく

終わりは知らない 連絡は来ない
ただ目を凝らす それが務め

白に覆われて 仮想敵も退散
一体いつから僕はここにいたのか
今日も国境を守る 何のために?

終わりは知らない 連絡は来ない
ただ目を凝らす

大義名分とか 大切な人とか
これからのこととか 考えずに済むから
黒い柵に向かう 国境じゃなくても

5.しっと

 シュール歌詞コンピ第3弾【Surreal Words Compilation #3 】の参加曲です。過去2回と違い、この曲はわたしのために書いてくださいました。「しっと」ってひらがなだと一見可愛らしいけれど、その裏に隠された情念深さみたいなものが滲んでじんわり怖い。


しっと

氷の心臓が動こうとして割れた
頭の愛情がミシンで縫われていく
言葉の細胞が分裂して離れる
気持ちの拠り所
残ったスープに留めて、煮詰めて、
淀んで、部屋中、香りを残して

必ずあなたは朝を迎えて
必ずわたしは眠らず、糸を垂らす

氷の心臓が気づけ気づけと話す
頭の愛情が机に書かれてく
言葉の細胞がやっぱり離れてく
気持ちの拠り所
話した語った、いつでも、煮詰めて、
部屋中、あなたの香りを

必ずあなたは朝を迎えて
必ずわたしは眠らず、糸を垂らす
迷わずわたしは朝を迎えて
迷わずわたしは眠らず、糸を垂らす

 「んじゃ書きますね~」といった感じでさらっと書いてくれたのだけれど、ミシンと糸が繋がっているところも、単語が少しずつ入れ替わっているところも、絶妙な読点も、ただただ凄いなあと嘆息しました。

6.火は見ない

 「水になる」と対で今回書いてくださった歌詞。わたしのハンドルネームの「海」も意識してくれたそうで嬉しかった。ずっと海の近くで育ち、今も定期的に海を見に行きたくなるので、詞のなかの女性と重なりました。ジャケットの写真も実家のそばの海です。


火は見ない

空いた空間を見て
黒焦げで旅に出る
海なら今すぐ見たい
焼けた服を羽織る
無神経を誇るのなら
少しは宇宙の影になる

きっと私に救いがあるなら

余命を数え 1歩を作り
涙を湛えて、海を見る
明日の方は 背中から来る
風を止めて、火は見ない

消えた水滴を見て
真っ白な頭を見る
海なら今すぐ見たい
数秒間だとしても
太陽があるうちなら
きれいな空気を見せて

きっと私に救いがあるなら

余命を数え 1歩を作り
涙を湛えて、海を見る
明日の方は 背中から来る
風を止めて、火は見ない

 本当は涙を「堪えて」と書いてくださったのだけど、「湛えて」と読み間違えてそのままいってしまったことにこれを書いて気づきました。すみません……。頭の「空いた」を聴くとアイタタさんを思い出します。
 何かから焼け出された女性の不安を出したくて5拍子にしました。原曲はすぐにできたけれどアレンジが迷走して苦しかった。結局いつもの感じにおさまりました。ストリングス大好きなので、自己流ながらカルテットのフレーズをつくって調整するのは至福で、DTMをやっていてよかったと感じる時間です。

おわりに

 自分の言葉を歌うのは気恥ずかしさや後ろめたさがあるけれど、自分ではない誰かの、それも名手のアイタタさんの詞をこんなにたくさん歌わせてもらえたことに心から感謝しています。あわよくば、これからも続いたらよいな。
 長々と読んでくださりありがとうございました!
 おしまい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?