JOA地図委員会の役割を考える

はじめに

少し前から、地図委員会の求人をFBなどに投稿したりしました。昨今のコンプライアンス上の要請などから、新しい人を委員会に入れなければならないためです。
それにあたって、そもそも地図委員会ってどういう役割があるんだろう、というのを自分なりの考えをまとめようと書いてみたのが本記事です。

結論から言えば、地図委員会が行っている実作業の多くはオープンで活発なコミュニティを作ることができればそこで代替できるのではないか、むしろそのコミュニティを維持し、盛り上げていくことを地図委員会の役割とするのがいいのではないか、と考えています。

以下、地図委員会の役割として考えられることを列挙し、それを地図委員会として行う意義について考えてみたいと思います。

ISOM等のメンテ

これは継続的に行われてきているし、これからもやっていく仕事なんだと思います。もっとも、かつて”JSOM”として日本独自の地図図式を定めていたころと違い、今はISOMが正になり、JOAのHPにあるものはあくまでも「和訳版」ですから、究極的にはこの日本語版が無くてもルールは成立するわけです。また、例えば、ISOM日本語版は「有志による和訳」といった形も一応ありうると思います。

とはいえ、JOAとしてオリエンテーリングを普及させていこう、という中で、日本語版を提供する意義と責任はそれなりにあろうかと思います。

地図に関する技術の研究

一時期、地図委員会の活動計画に書いていた時期もありましたが、今ではこれは地図委員会としてする必要は必ずしも無いと私は考えています。結局、技術的なことについて一番関心を持ち、熟達しているのはプロマッパーをはじめ、現場で地図を作っている人たちなわけです。それを潤沢な予算や専属の研究員がいるわけでもないJOAがサポートしようにも、実質的にできることは少ないように思います。よって、この辺に関しては「民間主導」でよいと考えています。

ただし、先陣を切って研究をするわけではないにしても、一部の人に偏在している情報や経験の流通をスムーズにする、というのは意義のあることではあると思っていて、それで今度マッパーフォーラム的なオンラインセミナーをやってみようとか思ったりしています。

地図評価的なこと

これも時々話題になることで、過去に地図委員会でも議論されたことのあることです。公認大会の地図を提出させて一方的に評価するとか、申請があった地図を評価して一定のお墨付きを与えるとか、いろいろなやり方が考えられます。

が、結論として、私はこの事業には否定的な考えを持っています。

一つは単純に労力的・能力的な問題です。地図に対して、良い悪いの判断を下すのは結構難しいことだと思っています。少なくとも私はできる自信がありません。最小寸法とか色とかのチェックは比較的簡単にできることかもしれません。しかし、それでも時にはテレインの現状に応じて最小寸法を破る方がいい場合だってあるかもしれないし、色もテレイン・コースによって微調整がありうるところです。更に、地図表現やコンタの書き方なんて話になったら、もう現地を見なければ分からないことです。これを、それなりの公平性・透明性をもってやることは技術的に難しく、やるとすればかなりの重荷であると考えています。

もう一つの理由は、上から一方的に評価をした場合、かえって地図製作者のやる気を削いでしまうのでないか、という懸念です。言う方にそんなつもりはなくても、一生懸命作った地図に否定的な評価を下されるのはあまり気持ちいいものではないものです。

また、OMAPの表現や作り方というのは、トップダウンで決めることというよりは、個々のマッパーの創意工夫の積み重ねにより進化して、それがルールを変えていく、という面もあると考えています(例えば、コントロール番号の白抜きはもともとルールにない段階で創意工夫として行われて、後からルールに組み込まれました)。何が正解か決めてくれ、という需要があるのは理解しますが、そう聞かれたら「あなたはどうするのがいいと思いますか?一緒に考えていきましょうよ」と答えたいんですよね。むしろ、言う方は「ある事例における一つの意見」のつもりでも、「こういう風にするのが正解らしい」というやり方が独り歩きして、個々のイベントでの創意工夫の余地をけずることにならないか、という懸念もあります。

もっとも労力的な問題については「俺がやる」という人さえいれば解決する問題だし、技術的ハードルはレビューの目的の設定によっては問題にならないかもしれません(あくまで評価ではなくアドバイス程度にするとか)。

ただ、その場合にしても、それをあえてJOAとして行う意味があるのかどうか。むしろ、JOAという権威ではなく、マッパー相互の(あるいは競技者も含めた)レビューとアドバイスという形式でやる方が、先に挙げた否定的評価に伴う不快感を軽減できるし、より多くの意見・視点・知見を得ることができるのではないかと考えます。

OMAPに関する啓発活動

私が思うに、結局はこれが一番大事な活動なんじゃないか、と思うんですね。要は、次世代のマッパーが育つ環境を作る、ということ。

言うまでもなく、OMAPはオリエンテーリング大会を開く上での根幹であり、一定の技量を持ったマッパー無くしてはオリエンテーリング界を維持することはできません。

幸いにして今は複数の若手プロがおり、当面は安心できる状況かとは思います。一方、長期的には後に続く人が出てこないと困るわけで、優秀なプロというのは、広大な裾野があってこそのものとも思います。

また、「地図作るのって大変だけど面白いよね」「完成すると嬉しいよね」っていう素朴な喜びをより多くの人に知ってほしいという個人的な思いもあります。

もっともこの活動も具体的な部分では多くをコミュニティに委ねることができるのではないかと思っています。何か困ったことがあったら聞ける場所、あるいは地図調査をやってみようと思った人が参照できるまとまった情報など(StartFlagがまさにそうですね)があれば、必ずしもそれがJOAの提供である必要もないのではないでしょうか。

海外の地図の調査・研究

今は全くこういう活動できていないけど、本当はやった方がいいんじゃないかと思っていることです。ここまでで書いたことですけど、地図のルールってISOM等から自動的にすべてがフィックスするわけじゃないんですよね。相当「慣習」や「相場」みたいな部分がある。こういう部分でガラパゴス化しないようにしたい、というのもあるし、どう解釈したらいいのか分からないときに海外(特に国際大会)の地図はどうなっているのか、ということを研究したいです。(ので、海外の大会に行くのが好きな人が委員会に入ってくれると嬉しいな)。

それよりハードル低いこととしては、海外のFBのマッパーコミュニティではかなり活発に地図の表現やISOMの解釈についての議論が行われているので、この議論に参加したり、議論内容の要約を日本語にして日本のコミュニティにフィードバックするような活動ができたらいいなとか思っています。

結局コミュニティがあればいいんじゃないか

ここまで書いてきたように、「地図を作れる環境・人材」の維持・発展はJOAが担うべきミッションではあるけれど、その具体的手段においては、相当部分がJOAの外のコミュニティに委ねることができるし、その方がボランティアベースの限られたリソースの使い方として効率がいいのではないかと考えています。

また、ISOMのメンテや各種講習会などは地図委員会でやったとしも、その補完的役割(解釈についての議論、技術情報交換などいろいろ)として、コミュニティは重要な役割を果たすと考えています。

よって、地図委員会の役割というのはこのコミュニティを維持する、盛り上げる、そういったことを主たるミッションにした方がいいのではないか。そんなふうに思っています。いわばコミュニティのリーダーみたいなイメージです。上で挙げた、海外地図の調査研究なんかもコミュニティの中で同好会的にできたらいいんじゃないか、とか思っています。

みんなコミュニティに書き込みしよう

地図委員会の委員募集とかだしましたが、正直、「だれか協力してください」でやってくれる人が現れる可能性は低いと考えています(いてくれたらめっちゃ嬉しいけど)。なるメリットがないからです。これは単にボランティアだからとかそういう話ではなくて、例えば全日本大会について何か思うところがあれば、じゃあ全日本員会に入って意見しようとか行動しようとか言う気持ちなる人もいるわけです。でも、地図委員会ってあんまりそういうところじゃない。上述したように、「地図委員会に入らなきゃできないこと」ってあんまりないんですよね。

だから、正直、地図委員のリクルートの問題に関してはどうしよう、と頭を抱えているところです。「誰かいませんか」ではなくて「あなたにお願いしたい」という形であれば、誰か来てくれる人がいるかもしれない。でもその声をかけるべき人がどこにいるのか分からない。なんとなくメリットもないのに役割だけを押し付けるようで頼む気も引ける。

これに対して、私は今妙案があるわけではないけれど、とりあえずコミュニティを活発にしたい、ということだけ考えています。地図に係わる皆さん、コミュニティに書き込みしてください。質問でも報告でも地図調査日記でも何でもいいんです。活発なコミュニティが日本の地図の水準を高めることができると考えています。

もしかしたらコミュニティの活動として同好会的に地図委員を頼める人が出てくるかもしれないし、コミュニティが十分自立すればむしろ地図委員会というJOA組織自体も無くてよくなるのかもしれない。

そういうことを考えています。


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