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DTP最高選手権

Twitterライムライン上で掲題の"DTP最高選手権"なるものを目にした。
"DTP"というのは「ドスケベ テキスト ポイント」の略称らしく、定義は正直あやふやなのだが、平たく言うと要は「好きなカードについて語る選手権」と解すのが妥当かと思われる。

丁度最新セットに自分史上最高となりうる可能性を秘めたカードが存在するので、今回久しぶりに特定カードについて書いてみようと思う。
応募はハッシュタグ"#DTP最高選手権"を用いての投稿が基本となっているようだが、140字以内の制限はたいへん窮屈な為noteに掲載するに至った。

以下本文。

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どんなカードの話をしている時が一番楽しいだろうか?

《Black Lotus》や《Time Twister》の様な高額カード?
《1996 World Champion》や《Shichifukujin Dragon》の様な特別なカード?
或いは、《王冠泥棒、オーコ/Oko, Thief of Crowns》や《レンと六番/Wrenn and Six》の様な各フォーマットを席捲してしまうほどの強力なカード?
Seb McKinnonの美しいイラストのカードについて話してる時が一番楽しいという人間もいるかもしれない。

しかし、よくよく思い返してみて欲しい。
本当にワクワクして、笑って、楽しく話す事が出来るカードの話題がどんなカードの話であったかを。


18,000 Words: The 100 Worst Magic Cards of All Timeというコラムがある。
その名の通りMTGにおける最悪のカード("そのままの"つまり"悪い"という意味)を1位から100位までランキング形式で挙げたリストである。
今から20年近く前に公開されたこのコラムはMTG史上最高の名コラムのひとつであろう。
もし時間が許すのであれば是非読んでみて欲しい。
このコラムで紹介されるカードはどれもユニークで滑稽で魅力的だ。
「何故こんなに弱いのか?」「どうしてこうなってしまったのか?」「どうすればよいのか?」worstカードは読者の思考を奪い続けていく。


さて、先日発売された新セット"ニューカペナの街角"にもそんな魅力的なWorst Cardが存在する。

なすりつけ/Incriminate


Incriminate / なすりつけ (1)(黒)
ソーサリー
同じプレイヤーがコントロールしているクリーチャー2体を対象とする。そのプレイヤーはそれらのうち1体を生け贄に捧げる。

Why it's bad

このカードは㌧でもない。
まず、このカードは除去したいクリーチャーは絶対に除去できない除去呪文である。

従来の"布告除去"の常として、生贄に捧げるクリーチャーの選択権が対戦相手に在る為に一番除去したいクリーチャーを思い通り除去できないという問題は存在するが、それら従来の布告除去は代わりにマナコストが軽かったりインスタントである事によって、対戦相手が重要クリーチャーを単騎でコントロールしている盤面に差し込みやすいように作られていることが多く、実際には意外と使い勝手は悪くなかった。

しかし、この《Incriminate / なすりつけ 》は違う。
相手の重要クリーチャーが単騎で立っている時にはプレイ出来ず、弾除けとなる他のクリーチャーが存在するときにしかプレイできないのである。
"なすりつけ"というカード名はよく出来ている。


次に、このカードは2マナのソーサリーである。
《恐怖/Terror》や《破滅の刃/Doom Blade》、最近であれば《パワー・ワード・キル/Power Word Kill》、《冥府の掌握/Infernal Grasp》等の黒の基本形となる単体除去群が全て2マナのインスタントである中で、このカードは2マナのソーサリーである。
前述の黒の基本単体除去群は多少の縛りやデメリットこそあるものの、概ね目的となるクリーチャーを確実に除去でき、どれも2マナインスタントである中で、このカードは2マナのソーサリーである。
単体除去はコンバットトリックに使えたり、装備やエンチャントや強化呪文をフィズらせるようなプレイによってアドバンテージを獲得できる事を強みとできるインスタントである事が極めて重要であるにも関わらず、このカードは2マナのソーサリーである。


更に言及しておきたいのは、このカードが対象をとる呪文であるという事。
"布告除去"の強みのひとつとして、"目標となるクリーチャーを対象に取らない"という事がある。
対象に取らない事によって、呪禁や護法等の厄介な除去耐性を持つクリーチャーも除去する事が可能なのである。
しかし、このカードは律儀に対象を取る。それも2体。
性質は"布告除去"に近いのだが、"布告除去"の利点をまるで持ち合わせていない。


How to fix it

このカードは元々は”犠牲x”を持っていたのではないだろうか?
それがなんらかの理由でなくなってしまったのではなかろうか?
そう考えると、このカードの異常な弱さにもある程度説明が付いてしまう。

例えば"犠牲1"を持っていたらどうだろう?
対戦相手が対象となるクリーチャーを2体以上コントロールしていないと唱えられないソーサリーという使いまわしの悪さこそあるが、この2:2交換は悪くない。
構築で使われる芽もあったかもしれない。

これは予想に過ぎないが、初期案時点では存在した犠牲が途中なんらかの理由で消失してしまい、その後再度調整されることなく世に出てしまったのではないだろうか?


令和の蒼月

ひどい。
このカードは本当にひどい。
LSVがドラフト点数表でこのカードにつけた点数は前代未聞の0.0
どんな場合にもデッキに入り得ない。

MTGでは定期的にひどいカードは登場する。

未だに語り草となる《したたる》
「《したたる》の再来、且つそれよりも弱い」と言われた《沼チン》
開発の悪ふざけで生まれた15手目のエース《null》

したたる
沼チン
null

彼らですら0.0は付けられなかったであろう。
どんなに弱くともクリーチャーであれば、横に倒し続ける事で一定の価値を発揮出来る。しかし、このカードはそれも叶わない。
一応除去呪文でこそあるが、その権能は「何もしない」に限りなく近い。
むしろ、曲がりなりにも除去呪文である所為で、ドラフトに不慣れなプレイヤーが15手以外でピックしてしまうかもしれなかったり、トチ狂ってデッキに入れてしまうかもしれない分ずっと悪質と言えるだろう。

その弱さはこの手のワーストカードリスト上位常連の《Deep Water》や不動のトップ《蒼ざめた月/Pale Moon》に匹敵する。


MTGが誕生してからそろそろ30年になる。
もういい加減、《蒼ざめた月》みたいな常人の理解を超えた㌧でもカードは現れなないと思っていた矢先に《なすりつけ/Incriminate》は現れた。
更に驚くべき事に《なすりつけ/Incriminate》にはプロモ版が存在する。

この事が何を意味するか分かるだろうか?
俄かには信じ難いのだが、WOCのデザイナーはこのカードがプレイヤーに歓迎され、トーナメントで使用される余地のあるカードだという認識を持っているのである。

信じられない!

余は嬉しい!!!
まだまだこれからもウッド様や沼チン級の弱いカードを見て笑える、弱いカードの話が出来る、弱いカードのどこがダメなのか、どうすればよかったのかを解き明かせる!


Incriminate / なすりつけ (1)(黒)
ソーサリー
同じプレイヤーがコントロールしているクリーチャー2体を対象とする。そのプレイヤーはそれらのうち1体を生け贄に捧げる。

素晴らしい。これほどDTPの高いカードが他に存在するだろうか?
このカードはMTG史30年のWorst Cardsに挑む新たなる英雄である。
更に30年先にも語り継がれる伝説となる事を願う。

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