『花をもらう日』第二章 苔が生えた①
「……そういう求人は、今まで一件もないですねえ」
薄いガラスの向こうで、担当の女性は眼鏡の縁に手をやった。からかいが声にこもらないよう気を遣ってくれているのが分かった。そうですよね、とわたしは薄く笑った。真っ昼間の蛍光灯の光は肌の色をくすませるなあと心を飛ばしてみる。
「希望の職種」の欄にアナウンサーと書いた人間はかつていただろうかと思いつつ、わたしはためらいもせず大きな文字でそう書いたのだった。1か月前、ハローワークの世話になろうとはこれっぽっちも思っていなかったからだ