シン・ゴジラ6回見てもまだわからないけど,こんな視点で見てほしい
※ネタバレ(物語の枝葉末節の部分がほとんどですが)がありますので,もし初回を純粋に楽しみたいという場合はここから先は見ないでください。(初回でも細かいことまで楽しみたいという方にとっては面白いと思います)
注意点
・歴代ゴジラシリーズやエヴァからのパロディや継承は私自身が全く詳しくないので言及しません。
・また,有名俳優がどこでチラッと出てくるのか等の演出の話も出てきません。基本的に政治,行政,組織的な話が中心です。
・実はもっともっと専門的な話があるかと思うのですが,とりあえずは初心者(の私)も楽しめる程度の着目点に絞りきったつもりです。
では行きましょう
・至る所で(特に開始から30分以内),政治家に対する官僚からのご説明シーンが多く見受けられます。総理大臣との会議の中で大臣の後ろについて逐一大臣たちにメモを渡す役人の方々と,そのメモをほしがる大臣たちがとってもキュート。
・前半,各大臣や各省庁の縦割り主義と事勿れ主義が如実に現れるシーンがたくさんあります。「どの役所に言ってるんですか」的な。また総理大臣に対して各大臣が発言する際には各省庁の視点からきちんと分野ごとに述べられていることも細かいですが素敵です。
・これも特に前半ですが,とんでもない登場人物の肩書の多さに驚かれるかもしれません。一つ一つ見ていけば面白いのですが,むしろあの速さでテロップが消えていくとすると読ませる気もなさそうなので,これくらいたくさんの役人や政治家が関わる事態なのだという雰囲気でさらりと見たほうが面白いかもしれません。(ちなみに,最初の方である閣僚だけちゃんと「出張中」となってるのを(見落としやすいですが)見落とさないでください。これが後半の重要なシーンに繋がります。)
・首相や官房長官の会見では,常にすぐ横に手話の方がいらっしゃいますが,巨大不明生物(あるいはゴジラ)のことを手話でどんな風に表現しているか気にして見てください。面白いですよ。
・緊急用のWi-Fiがとってもシンプルで面白いです。
・内閣府,各省庁や研究者,自衛隊の方々がそれぞれ違うPCを使っていることも細かい描写ですがこだわりを感じられます。巨災対のメンバーが一緒にいるときが一番わかりやすいかもしれません。富士通の使っている役人,Macを使う研究者,頑丈なレッツノートを使う自衛隊員など,それぞれにこだわりがあるように感じられます。
・ゴジラの対策のために,とにかくまず多数のコピー機を運ぶシーンを描写するのが,リアルな政治ドラマっぽくて面白いです。ハリウッド映画なら米軍から特殊部隊が銃を持って飛び立つ様子をまず描写しそうなのに。
・巨大不明生物の出現後,政府が対策のために災害対策本部を設置するまでの流れは,日本の災害対策を如実に表現しており,震災時等はこのように政府が動いているというのをリアルに見ることができると思います。
└内閣情報集約センターに事故情報
→矢口官房副長官に連絡
→官邸危機管理センターに官邸対策室を設置
→官邸緊急参集チームの招集
→緊急災害対策本部(巨災対)を設置
・自衛隊が出動する際,「あれは害獣駆除なのか防衛出動なのか」を役人たちが議論する場面が非常に丁寧で,好きなシーンです。政府の行動は全て法律に基づく必要があり,自衛隊がゴジラを攻撃する際の根拠を法律から探そうとするのですが,文言的に害獣駆除とも防衛出動とも決めがたい一瞬のシーン。
・自衛隊の出動後,ゴジラへの攻撃を開始する寸前で逃げ遅れた人が発見されます。このとき首相が発する言葉はどういう意味を裏側に持っているのかに着目してほしいです。
・340万人の都民が東京から疎開する様子は,今後起こりうる南海トラフ巨大地震や首都直下型地震の未来を描いているようで,その待機の列や渋滞を今回の映画で先に思い描くのは重要に思えます。
・また,途中で避難所で入浴具を持った人の様子が描かれますが,これは東日本大震災でも自衛隊の方々が避難所に設置してくれた入浴施設の存在を伺わせます。これのみならず,避難所の様子は東日本大震災で実際に設置された避難所そっくりに再現されており,非常にリアリティのある作りになっています。
・ちなみに,朝鮮半島・中国側の有事の可能性がチラッと表現されます。「対馬の方で動きが…」というような発言が一瞬あります。注意して聞いてみてください。
・ゴジラの再上陸後,一瞬だけJ-ALERTの存在を示すセリフが出てきます。これもとってもリアルです。
・自衛隊によるタバ作戦の際に如実に現れるのですが,命令系統が明確に可視化されています。もちろん最終は首相。この流れを追っていくと誰がどのポジションにいるのかを把握することができます。
・自衛隊員たちの「送る」「送れ」や13時を「ヒトサンマルマル」という言い方などの独特の言い方が細かいですが萌ポイントです。幕僚長の「彼(カ)の能力が不明過ぎる。我(ワレ)の全力を投入すべきと考える。」という言い方も,普段耳慣れない言葉で反応してしまいます。
・自衛隊によるタバ作戦の終了後,外国人らがさらっと出ていくシーンがあります。これは米軍将校らが自衛隊による作戦の様子を見ていたのでしょう。若干首を振りながら出て行くあたりが,後の米軍の強力な攻撃を伺わせます。
・ちなみに,タバ作戦終了後,カットされたシーンがあります。これは見てみるとわかるのですが,あまりにも重苦しく,辛いシーンでカットされたとも思え,しかし2回目以降見る方はこういうシーンもあったと思うとまた違う感じ方ができるかもしれません。
・観測ヘリコプターが自衛隊の戦果報告をしている点も興味深い点です。
・国会前で「ゴジラを殺せ」「ゴジラを守れ」「ゴジラは神だ」といういろんな立場のデモが起きていること、そしてそれをスルーして寝ている役人たちのシーンがなんともリアルです。
・シンゴジラは庵野監督が述べているとおり,3.11の原発事故を想起させるものです。ただし一点,重要な事実が出てきていないのは,天皇陛下並びに皇族の方々の避難のタイミングです。こればっかりは色々な話に飛んでしまって2時間半では描ききれなかったのかもしれません。
・また個人的には,日本国政府と東京都の権限分配の様子も非常に興味深く感じました。
・普通の映画でしたらエンドロールは見ないでチャンネルを変えてしまいたくなりますが,シンゴジラだけは別。エンドロールに出てくる取材先や協力機関等,全てに意味があって本当に面白いので,ぜひ最後まで見てください。
・矢口が政治を勝ち負けの世界と言ったり,「夢ではなく現実を見て考えろ」と赤坂が述べたり,政治に関する名言が次々に出てきます。政治が好きな人間からすれば一つ一つが震える表現です。
・ちなみに,最後までなぜ今回の矢口プランの作戦名が「ヤシオリ作戦」だったのかわからなかったのですが,ぐぐってみると,「須佐之男命(スサノオノミコト)が八岐大蛇(ヤマタノオロチ)に飲ませた「八塩折之酒」(ヤシオリノサケ)に関係する」というのが出てきました。確かにものすごく示唆的ですね。
一気に書いてしまったので誤字脱字多いかもしれませんし,本当はもっと詳しい方がたくさんいらっしゃると思うのですが,どうぞシン・ゴジラ楽しんで頂けると幸いです。
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