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マルタ島でレコードを探す── 「 あぶらだこ」とタコのコルゼッティ(後編)

インスタからいらしたみなさまありがとうございます。
コロナ前に書いてそのままにしておいたテキストなので情報の鮮度はどうだかわかりませんが、レコード屋は当時もそこまで活気がなく、しかしだからこそ、いまでもゆったりと営業を続けているような気がします。
旅の参考にしてください。

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(続き)

 長身が手渡してくれたメモには、番地と店名が殴り書きにされていました。
 彼がオーナーに呼び戻され「そろそろ働けや」と注意されるまでの10分間、充分に温まった同胞の絆は、別れの寂しさと店への期待感をダブル・ブースト。
 自分は長身との再会を誓い、固い握手を済ませ、さっそくその店に向かうことにしました。

 長身のメモには「SOLO VYNIL」とあります。
 それは「SOLO VINILI / LIBRI」という店のことでした。
 バス移動の負け戦に関しては前述の通り。慎重に歩を進めていきましたが、ラッキーなことにそこは自分のホテルにもほど近く、Vallettaから13番ルートのバスに乗り、Kulleggという停留所で降り、しばらく迷うと見つかる場所にありました。

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 入店するまでは新宿ダイカンプラザのようなマンション系を想像していたのですが、意外にも明るく開けた店内には、地元のZINEやアーティスト・ブックのコーナーもあり、セレクト・ショップのような佇まい。なかなか見応えがあります。
 同じ皿でもピザのほうがしっくりきそうな髭面・巨漢の店員さん(写真ナシ)も、気さくでいい人。近所にあれば通うであろうお店でした。

 というわけで、以下は自分が購入した5枚です。
 中古盤の取り扱いが弱かったため、HITLER SSやEu's Arseのレア・スタッフが驚きの地元価格で……とはなりませんでしたが、すべてイタリアのものです。

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・Pueblo People 『Sentiero di Guerra』 (Solo 01)

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 SOLO VINILI / LIBRIは同名のレーベルもやっていた。
 これはそこからのファースト・リリース(品番買い)。
 B面「Warpath」が12分43秒のロング・トリップ。トレモロの効いたギターがクール。録音もよく、もしA Mountain Of Oneの人たちがロックしか聴かなければこういう音になるのかもしれません。好きです。素敵です。


・Krano 『Requiescat In Plavem』 (MDR004)

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「Italian Beer. Italian Weed〜」と始まる裏ジャケットのライナーを読み購入したもの。ジャケットはゴゾ島での撮影かと思います。内容はといえば、期待通りにいい湯加減のSSW。「恥も外聞もなくNeil Youngだなぁ」と聴き流す部分もありましたが、終盤に自分の好物が詰まっていました。
「Schei」は美しくインティメイトな宅録で、続く「Va Pian」は10分55秒という長尺に、とても映像的な組曲を構築。ピアノ、口笛、電子音。ここには誇張なしに初期Van Dyke Parks的ななにかが展開されています。
 たとえば「カーテンから差し込む夕暮れの光。そろそろ部屋の明かりを点けてもよいのだけど、そのほうが暗く感じてしまうはず。なぜなら自ら夜を始めてしまうことになるから」という時間帯に聴くとたまりません(とはいえこの時簡帯はほとんどのレコードがよりよく聴こえるのですが……)。
 ちなみに限定300。厚手のビニール・カバーに被せ帯とインナーシートが付属。


・Lantern 『Diavoleria』 (KID007)

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 これも厚手のビニール・カバーに片面プレスのブラック・ヴィニールという仕様。
 寝室の床にタコの足が転がった鉛筆画に、Horrid RedとBeach Fossilsの中間のようなサウンドを期待しましたが、内容は凡庸なポストロック?   エモコア?  ときどきイタリア語の語り。トータル10秒ほど聴きましたが全然好みじゃなかったです。誰かあげます。


・Cayman The Animal 『Apple-Linder』 (EFT072)

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 これも巨大な6面見開きポスター・ジャケットのタッチに、知られざるイタリアン・エレクトロを期待しましたが、内容は凡庸なエモコア?  スケート・パンク?  イントロだけ聴きましたが全然好みじゃなかったです。誰かあげます。


・Jaws 『Stress Test』 (H013)

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 これもジャケットがおもしろい。約90センチの鋭角な山型プリントを3つ折りにしてあります。
 内容はといえば、枯れて乾いて粉まで吹いたアナログ・シンセに怪鳥の卵黄を加えてこねくり回した、悪ふざけ以上、サウンド・アート未満という感じの問題作。地団駄を踏むための脚はとっくに壊疽し、土性骨の片鱗だけがバスクリンに漂うさまの経過報告。ケミカルによる精神の移ろいを感じさせるベタ貼りコラージュ大会の奥の部屋で、男性が唸ったり吠えたりしています。
 見ればリリースは2011年。レイドバック指数はChillwaveの風動下にあってもよさそうなものですが、彼の場合、Butthole Surfersからの影響が抜けきっていません。事実89年の『Widowermaker! EP』からハッタリと制作費を抜いた感じにも聴こえます。
 スピーカーの内側にフジツボが密生しそうな粘着質。とても気に入りました。

 ただしこれは日本にも入ってきていたようで、Meditationsさんに在庫の履歴を発見。
 そして「SOLO VINILI / LIBRI」を検索すると、ミラノにも店舗があるチェーン店であったことが判明。

 価値のついていないものを探すのは本当に難しいなぁ……。

 と、唐突に終わります

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