見出し画像

とあるボイチェン勢、メタバースの民に問う

(この記事はボイチェンの使い方、設定等を記したものではありません。それらはまた別の記事に纏める予定なのでしばしお待ちを。)


こんにちは。メタバースに1年くらいいる新参ボイチェン勢のひとりです。

さてみなさん、いかがkawaiiしてお過ごしでしょうか。
世がメタバースに騒ぐこの時代、「自らkawaiiになる」ということもかなり身近になっているのではないでしょうか。

あなたがこの世界に足を踏み入れ、初めて美少女アバターを身に纏った瞬間。
あなたは直感的に、どう感じたでしょうか?
自分がまるきり"美少女"であることに、心躍ったでしょうか?
それとも何だか奇妙な感じがしたでしょうか?

最初の感じ方は人それぞれだと思います。
しかし、このメタバース(特にVRChat)では最終的には多くの人が美少女の姿に落ち着きます。
いくつかの調査結果によると、VRChatの75%以上のユーザーが女性アバターを使用しているようです。

VRに限らず、"kawaiiになる"こと自体は現代社会において可能になりつつあると言えます。
今や多くの人にジェンダーマイノリティが周知され、様々な場所でLGBT云々が叫ばれています。
まだ偏りがあるとはいえ、女装やコスプレといった文化が知られる場も少しずつ広がってきています。

しかし、メタバースはもはやその比ではありません。
多くの現実男性が今もメタバースに新たに参入し、そして美少女の身体を得ています。

なぜ現実では"ごく普通"の男性が、現実ではなくメタバースで美少女の姿となるのでしょうか。
その要因のうちの強力な1つとして、メタバースはkawaiiになる敷居があまりに低いことが上げられるでしょう。

現実では、生まれ持った物理的な身体があります。
これは基本的に交換不可能です。
一部の特殊な技術により改変することは可能ですが、それらは高額であったり、特別な技術を身に付ける必要があります。
そして、生まれ持った性別があります。
肉体的性別もこれまた基本的に交換不可能です。
社会的性別も物心付く前から環境によって与えられ、それを自らの意思で変更するには未だ労力が必要となります。
すなわち、現実は"しがらみ"が多いのです。
最初から個人に"与えられた"属性が多く、強い意志が無ければ基本的にその与えられた属性を使うことになります。

しかし、メタバースではその"与えられた"属性が一度リセットされます。

メタバースには新しい文化があります。
現実にはびこる古いものとは別の価値観を得ることができます。
そこではワンクリック、ワントリガーで己の姿を自由なアバターに変えられます。
そこでは物理同性がパートナーとなることが当たり前のように受け入れられています。
そういった、現実の"しがらみ"が取り払われた状態で、自由に自己の在り方を決めることができます。
メタバースの環境が、参入者にkawaiiになり始めることを非常に容易にしています。
そんな中で、最終的にメタバースの住民の大半はkawaiiになることを選んでいる訳です。

ところで、メタバースはVRChatだけで完結しているものではありません。
例えばバーチャルキャストは配信プラットフォームとして優れた機能が使用できることで知られています。
このバーチャルキャストでは、比較的多くのユーザーがボイスチェンジャー(ボイチェン)を使用しています。
すなわち、機械(ハードウェア、ソフトウェア含め)を使って変換した声で会話しています。
調査結果ではバーチャルキャストの4割近くがボイチェン勢を占め、約1割であるVRChatとも優位に差が見られます。
これの要因としてニコニコの合成音声文化からの流れがあるのではないかと考察されています。

その一方で、多くのユーザーを抱えるVRChatでは地声が主流です。
姿が女性アバターであるかそれ以外であるかに関わらず、多くの物理男性がそのままの声で会話しています。
kawaiiになることが許され、多くの人が女性アバターを使用する場所でなお、多くの人が男声を使用しています。

ともすれば、彼らVRChat民は望んで男声を使用しているのでしょうか。
調査結果によると、地声を使用している物理男性の半数以上が異性の声でプレイしたいと思っているようです。
すなわち、「kawaii声になりたいが、何らかの理由でkawaii声にしない/できない」ユーザーが少なからずいると考えられます。

この"何らかの理由"には様々な理由が考えられます。
ボイチェンの起動や発声の工夫がめんどくさいという理由もあるでしょう。
会話が相手に聴き取りづらくなるのを避けたいという理由もあるでしょう。
しかし、最も重要な点の1つとして、やはり「文化が浸透していない」というのがあるのではないでしょうか。

バーチャルキャストでは比較的多いボイチェン勢が、VRChatにはほとんど見られない。
メタバースでは多くの人が美少女アバターを使用しているが、現実には必ずしも女装している訳ではない。
メタバースで美少女アバターを使うのが現実の"しがらみ"からの解放の結果であるならば、声もkawaiiにならないのは"しがらみ"が理由である可能性が充分に考えられます。
すなわち、わたしたちは未だに「男性は男声を発するべきだ」という固定概念に囚われているのではないでしょうか。

今、VRChatの日本界隈では一般のユーザーがUnityを使ってアバターを改変することが当たり前になっています。
これははっきり言って異常事態であると言えます。
元々VRChatはUnityの技術者向けにSDKを公開し、ワールドやアバターを一般人にシェアしてもらうことを意図していたと考えられます。
しかし時代は下り、販売アバター文化が浸透し、一般ユーザーが販売アバターを自分の身体としてアップロードし始めました。
その時点で既にUnity環境の導入というハードルがあります。
しかしそれに留まらず、多くのVRChat民がアバターの服の色を変え、髪の色を変え、衣装を変え、武器やアクセサリーを仕込みます。
それら改変を行うにはUnity知識が必要となります。
Unityには多くの専門用語が存在し、馴染みの無い人には学習がとっつきづらいものになっています。
それもそのはず、Unityはゲームエンジンです。決してお着替えソフトではないのです。
それでもなお多くのVRChatユーザーは知識ゼロの状態からUnityを学習し、自らの身体であるアバターを改変します。
これは恐ろしいほどの熱意です。
それほどまでに、「なりたい自分」になるための努力を惜しまない人が多数いるのです。
"敷居"を越えてしまえば、kawaiiになることにもはや技術的ハードルは関係ないことが証明されてしまいました。

つまり何が言いたいかというと、それほどまでに熱意があるのならば、声に関して敷居を感じる必要は無いということです。
あなたが今美少女アバターを纏っているのならば、その時点できっとkawaiiになりたいという魂があると思うのです。
声は今のままがいいと思うのであれば、それでも良いと思います。
しかし、そうでないなら、姿だけでなく声も変えていいと思うのです。
わたしはメタバースがそこに抵抗を感じさせるような場所であって欲しくないのです。
もし声を変えるのが恥ずかしいと思うのであれば、それは環境や文化が悪いはずです。
技術は後からついてきます。VRChatのユーザーの大半はおそらくUnity知識ゼロだったのですから。
メタバースは必ず、わたしたちに姿だけでなく声も変わることを許しています。

「声を変えるなら肉声で女声ができるようになってから」という人は多いと思います。
その意識はとても立派だと思います。
実際にボイチェンは環境含めて有料だったり、起動の手間があったりするし、何より自然な声にするのが難しいので、両声類(男声と女声どちらも出せる人)になることは技術として有益です。

しかし、冷静に考えて欲しいのです。
声を変えると言ったとき、あなたはどこまでの場面の広さを想定していますか?
メタバースは、最終的に長時間をそこで過ごすことを意図した多目的空間です。
多くの人は、基本的にはモデル活動や演劇など特定の目的で美少女の姿になる訳ではないと思います。
イベントに参加したり、ただ駄弁ったり、様々な活動をメタバースの姿で行っていることでしょう。
姿がそうであるならば、「メタバースの中でその声を常用すること」もごく一般的であるはずです。

一方で、世の中には両声類と呼ばれる人が存在しますが、彼らの多くは異性側の声を常時使用している訳ではありません。
その理由は単純で、基本的に異性側の声のほうが疲れるからです。
男性と女性では声帯が異なるので、異性側の声を使用するとき特別な労力を要するのはごく自然な話です。
もちろんトレーニングを積めば、異性側の声を使える時間が少しづつ伸びるでしょう。
しかし、わたしたちが目的としているのがその声の常用であるならば、最初から長時間使える必要があります。
特別な訓練を積めばそれも可能かもしれません。
しかし、その訓練のために時間を割くなんて普通の人には無理だと思うし、効率も良くないと思うのです。

そんなときに、ボイチェンはわたしたちの味方になってくれると思うのです。
ボイチェンはピッチを上げるという一番筋力を要する部分を補佐し、疲労を軽減します。
なんなら異性の声にまでしなくても、地声のちょっとした加工に留めることもできます。
その結果、容易に長時間の使用を可能にします。
しかも、長時間使用することによって、実践的に自然と声の使い方が身に付くので、前もった特別な訓練も必要ありません。
メタバースにおいて姿と同様に声を常用したいと思うのであれば、ボイチェンは非常に有用なツールです。

メタバースにおいて、わたしたちがそれぞれの"なりたい自分"になるための鍵。
アバターに次いで、ボイチェンもその1つの鍵となりうると思うのです。

お前もボイチェン勢にならないか?

【参考文献】

メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?