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いまもきっと、ひっそりと誰かが

霊能力だとか超能力だとか胡散臭い。
そういうのってだいたい、手品師とか、心理学に長けてる人とか、見えないものを見えた気にさせちゃう話が上手い人とか、そんな感じじゃないのかしら。

超常現象に対し斜に構えてしまう私でも、ちょっとばかりの不思議体験は持っています。

その中でも、目の錯覚とか記憶違いとか寝ぼけていたとか、明らかにそういうのじゃないものをお話ししますね。


幼い頃から私は感覚が鋭敏でした。
暗いところでも目がよく見えて、小さな音がよく聞こえて、かすかな香りも嗅ぎ分けて。味覚も鋭かったかも。

脳は情報の大洪水。

混乱に輪をかけていたのが手からの視覚。

手なら触覚じゃないのかとお思いでしょう。
視覚です。

私は、手で触ったものが見えました。


見えると言ってしまうと大げさかも。
手からの視界、脳内に流れ込むそのイメージは、視力が弱い人の見る景色のごとくぼんやりと滲んだ大まかな色です。
手で物に触れると、頭の前の方、額のあたりにブワッと色が広がるのです。

これ、うるさいですが面白いんですよ。
目を開けたまま網膜で捉えた景色の上に、ブワッ、ジュワッ、と色が重なるのです。
カメラのフラッシュを焚いたときのように色はすぐに溶けるので、そこまで邪魔にはなりません。

目を閉じると綺麗です。
色鮮やかなものを握った瞬間、暗い視界に広がる花火。

子ども部屋でひとり、そうやって楽しむ時間が好きでした。


小学校3年生だったか4年生だったかそれくらいのときに、なにを間違ったか同じクラスの女子にそれを披露する気まぐれを起こしてしまいました。
いじめられっ子だったくせに、気にしないふりをして唐突に話しかけ余計にネタにされるってやつ。

7色入りのカラーペンセットを握りしめて前の席の女子に話しかけました。
「私、触るだけで色を当てられるよ。」
前の席の女の子は、ねぇねぇ、手品するんだって、と他の友達に声をかけ、みるみるうちに私は6人の女の子に取り囲まれました。

背中に回した手に渡されるカラーペンの色を私は次々に言い当てました。
みんな、え、なんでわかるの?と言いながら、手品のタネを見破ろうと目をこらします。
仕掛けが見つからないことにしびれを切らし、1人の女子が言いました。
「ねぇ、私のペンでやってみてよ。」

いいよ、と答え私は後ろ手で彼女のペンを受け取り、7色どころではないカラフルなペンの色をよどみなく答えました。
両端それぞれ別の色が書ける、ツインカラーのペンもキャップを触ってそれぞれ間違えずに答えました。

シンと静まり返る女子たちの輪。
「きしょくわる。」
リーダー的な子がそう吐き捨てて、みんなシラけた表情になりお開きとなりました。
いじめられっ子が披露するタネのない手品は、興味よりも嫌悪を呼び起こしてしまったようでした。

これが少年漫画なら謎の老師があらわれて、しゅんとしている主人公に「君の能力は世界を救う」と声をかけて修行が始まるんでしょうけど。

私自身、オカルトな話は苦手です。

嘘つき呼ばわりされるリスクを背負ってまで誰にも理解されないような話をする、その精神構造に恐れを抱くのかもしれません。
私も虚言癖がある人だと思われちゃうかもしれないな。

でも他人に理解されない何かを持っていて、孤独を感じている人は実際にいるんじゃないかしら。私がそうだったから。


オカルトな話を苦手とする私が、自分の能力を超能力で片付けたくなくて、無理やり科学的に解釈して納得している仮説を書いておきます。

原始的な動物は皮膚に視覚器があるといいます。
目じゃなくて体の表面で光を感じるそうです。
人間にも稀に、皮膚に光を受容する細胞があり、その細胞が発する信号を脳に伝達する神経が残っている個体がいる可能性がある。

そのうち1人がたまたま私だったという仮説。
霊能力や超能力と言われるとピンと来ませんが、それであればちょっと納得。
私、皮膚が原始的なのかも。
現代科学では解明されていないけれど、誰か、現役の生物学者が論文でも発表してくれたら、私は「きしょくわるい」呼ばわりされなくて済んだかもしれないな。


どうやら自分にしかないらしい。
そんな能力を持っていたものだから、霊能力者だとか超能力者だとか手品師のなかには、本物もいるんだろうと思います。誰が本物なのかを見分ける能力なんてものは私にありませんが。
テレビの超能力者特集で「手のひらで景色を見る少年」なんかが出ていると、あ、仲間かも、なんて親しみを感じたものです。

私の能力は小さすぎて、とうの昔に枯れてしまったのですけど。
あのときのシンとした空気を思い出すのが嫌で、家にひとりでいるときもやらなかったら、いつのまにか手で色を感じることができなくなっていました。

誰にも理解されなかった、なんの役にも立たない、かわいそうな消えちゃった能力。

もしかしたら今日も誰かがこの世界の片隅で、似たような能力をこっそり愛でているのかな、と想像しつつ、この話はここでおしまいです。

♡を押すと小動物が出ます。